見もの・読みもの日記

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あきらめる力/0点主義(荒俣宏)

2012-06-28 00:13:29 | 読んだもの(書籍)
○荒俣宏『0点主義:新しい知的生産の技術57』 講談社 2012.5

 「0(ゼロ)点主義」の説明には、このようにある。人生の知力とは、ここぞの場面で相手を空振りさせる「決め球」を磨くことだ。こういう球は、出題者が決めた枠にストライクを投げられるかどうかを判定すれば、ボール、つまり0点にしかならない。ふむ、野茂のフォークボールみたいなのをイメージすればいいのかな。

 荒俣さんの知性のユニークさには全く異論がないが、本書は、その魅力を十分に引き出しているとは言いがたい。特に前半は「0点主義」と言いながら、どこか「損して得取れ」みたいないじましさが感じられる。

 私が著者の真骨頂だと思うのは、「あきらめる力」「見込みのないこだわりを捨てる決断力」について語った章段。「成功したい。お金持ちになりたい。異性にモテたい」という、誰もが叶えたいと思うベスト3を人生の目標から外してしまえと著者は提言する。プライドを捨て、自分の評価を低いほうにおいたほうが楽に生きられるし、学べることが多い。それから、伸びしろの少ない長所に頼るよりも、短所に目を向けることのほうが重要である。これら、私が共感した記述は、全て本書の後半(というか終盤)に一気にあらわれる。

 一般的には「成功したい。お金持ちになりたい。異性にモテたい」という目標を「諦めたフリをする」ことに同意はできても、本気で「諦める」人生に同意できる人は少ないんだろうなあ…。でも、それでは荒俣宏にはなれないのだ。

 終盤には、読書に関してユニークな見解を述べた箇所も、いくつかあった。たとえば、「タイトルに惹かれたり、はじめの2~3行を読んでおもしろいと感じたら、自分にとっていい本である可能性がかなり高い」。読書慣れしていない人には、眉唾に感じられるだろうが、私は経験的に同意できる。

 あと、勉強や読書は、あまり批判的にならないほうがいいという意見。これには、心から同意する。昨今、ものごとを批判的に読んだり見たりすることを評価しすぎではないか。批判を忘れ、素直に感動し、惑溺し、その結果、多少だまされても気にしないくらいの態度が、読書の楽しみには必要なのではないかと思う。

 また「定年退職後に(暇になったら)勉強しよう」では遅い、という高齢者に対して容赦ない叱咤激励も見られた。そのとおり。好きなことを学ぶのに、遠慮などしていてはいけないのである。荒俣さん、「地獄に堕ちてもなお学ぶ」と、求道者のような言明をサラリと書いている。そこは「あきらめない」のだな。見習いたい。
コメント (1)
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