見もの・読みもの日記

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フクシマの寓話/映画・家路

2014-03-09 00:05:53 | 見たもの(Webサイト・TV)
○久保田直監督、青木研次脚本『家路』(札幌シネマフロンティア)

 映画はあまり見ないほうだが、それにしても1年以上何も見ていなかった気がする。初めて札幌の映画館で映画を見て来た。舞台は震災後の福島。原発事故によって立入禁止区域となった「家」に、東京からひそかに帰ってきて、荒れ放題の畑を耕し、ひとりで暮らし始める若者・次郎(松山ケンイチ)。その母(田中裕子)と兄(内野聖陽)の家族は、狭い仮設住宅で逼塞した生活を強いられていた。

 私は、NHK大河ドラマの短い視聴歴の中で、好きな作品の双璧が『風林火山』と『平清盛』なので、その両主演俳優が揃い踏みだからというのが、この映画を見たいと思った動機だった。しかし、この映画は、大河ドラマ的な「作り」からは、全く遠いところにあった。「ドラマ」は実に淡々と進む。見る側が積極的に想像や共感を働かせない限り、ほとんど「ドラマ」がないと言ってもいいくらいだ。監督がドキュメンタリー出身だというのは、非常にうなずける。

 私は、いくつかの中国映画の秀作を思い出していた。抑制されたドキュメンタリータッチの中に深い詩情をしのばせる、たとえば、ジャ・ジャンクー(賈樟柯)の作品。と思って検索をかけたら、ジャ・ジャンクー作品の配給を手掛けているのも、この映画と同じ「ビターズ・エンド」なのだ。偶然とは思えない。

 主演の松山ケンイチは、高校生みたいに初々しく見える。故郷を捨て(させられ)、東京で嘗めてきた苦労を語らず、恨みも怒りも忘れたように、ただ故郷に帰ってきたことを喜び、ひたすら土に鍬を入れ、苗を愛おしみ、老いた母をいたわる。脚本は、議員として電力会社を誘致し、故郷に利益誘導を図った父親の記憶の映像をはさみ、善人だがたよりない兄と聡明でしっかり者の弟(血はつながっていない)の間にあった葛藤を、曖昧に提示する。しかし、全ては次郎の穏やかな笑顔の向こうにある。

 しばらく次郎のもとに身を寄せる同級生の北村を山中崇。これがすごくいい。ドラマの核は、次郎たち家族の物語なんだけど、導入部で次郎の不可思議な行動に寄り添い、また去っていく彼の存在が効いている。

 そして、ドラマの中で彼らがどうなったのか。現実にこういう「事件」があったら、どういう結末を迎えるのか、幸福なのか不幸なのかはよく分からない。でも、こんな寓話がひとつくらい語られてもいいような気がする。
コメント
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