○井浦新著;東京国立博物館監修『井浦新の美術探検:東京国立博物館の巻』 東京美術 2014.3
5月に東博に行ったとき、ミュージアムショップで見つけて買った。NHK『日曜美術館』の司会もつとめる俳優・井浦新さんが案内する東京国立博物館の本。かわいい、オシャレな写真満載。井浦さんがオシャレだし、東京国立博物館の建築&庭園も、実にオシャレなスポットが切り取られている。北海道民となった今日でさえ、月に一度は東博に遊びに行っているヘビーユーザーとしては、そうそう、この階段の手すり、あの壁のタイルも綺麗に写してくれて、満足このうえない。
もちろん、東博のコレクションもオシャレ。埴輪、土偶、日本絵画、仏像、仮面…。ひとつひとつに真剣に驚き、見入る井浦さんの表情がいい。ところどころに旅先のオフショットの写真があるのも楽しませてくれる。日本絵画のセレクションが、雪舟、雪村、北斎、蘆雪、富岡鉄斎という好き放題ぶり(?)もいいなあ。
それから、東博の先生たちが、意外なほど(失礼)スタイリッシュ。日本考古の井上洋一さん、東洋美術史の勝木言一郎さん、保存科学の神庭信幸さんが登場しているが、俳優の井浦さんに負けていない。やっぱり確固とした専門を持っている人が、それについて語るとき(しかも熱心な聞き手を得たとき)の表情はいいものだな。
なかでも面白かったのは保存科学の神庭先生の章。ふだん一般参観者が見ることのできない「ウラ東博」を見せてくれる。地下の刀剣修復室で、客員研究員として刀剣の修復を担当している研師(とぎし)の小野博柳氏を訪ねにいくと、裸電球の下(あえて昔の光のままにしているそうだ)、板の間に素足で座って、水の入った木桶を脇に置いて、研いでいらっしゃる。「今研いでいる刀はいつ頃作られたものですか?」「南北朝時代です」という何気ない会話がすごい。
東洋館3階のミイラ展示ケースの下には、低酸素維持装置が設置されており、展示と同時に保存に適した環境が実現されている。掛け軸の劣化を予防する「簡易万能太巻芯」(鈴木式と呼ぶそうだ)を手に持ったり、修復専用の高精度ルーペを装着させてもらった井浦さんは、どこまでも無防備に驚き、嬉しそうである。でも、残念ながら「国宝の修理室」は撮影禁止とのことで、現場の写真がなかった。現在は、狩野永徳の『檜図屏風』を修復中と文章には説明があったが、どうしてかなあ。『檜図屏風』は東博の所蔵だから、作品の所蔵権の問題ではないらしい。保存技術の秘密保持? それとも館内のどこでこうした修復が行われているかを特定されると危険があるのだろうか。などと、いろいろ勘ぐってみる。
本書は「東京国立博物館の巻」というのだから、ほかの美術館を紹介する続巻も出ると嬉しい。しかし、それ以上に、文化財の修復保存の現場を井浦さんが案内する1冊が出たらいいのに、と思った。写真は、グレート・ザ・歌舞伎町氏。
5月に東博に行ったとき、ミュージアムショップで見つけて買った。NHK『日曜美術館』の司会もつとめる俳優・井浦新さんが案内する東京国立博物館の本。かわいい、オシャレな写真満載。井浦さんがオシャレだし、東京国立博物館の建築&庭園も、実にオシャレなスポットが切り取られている。北海道民となった今日でさえ、月に一度は東博に遊びに行っているヘビーユーザーとしては、そうそう、この階段の手すり、あの壁のタイルも綺麗に写してくれて、満足このうえない。
もちろん、東博のコレクションもオシャレ。埴輪、土偶、日本絵画、仏像、仮面…。ひとつひとつに真剣に驚き、見入る井浦さんの表情がいい。ところどころに旅先のオフショットの写真があるのも楽しませてくれる。日本絵画のセレクションが、雪舟、雪村、北斎、蘆雪、富岡鉄斎という好き放題ぶり(?)もいいなあ。
それから、東博の先生たちが、意外なほど(失礼)スタイリッシュ。日本考古の井上洋一さん、東洋美術史の勝木言一郎さん、保存科学の神庭信幸さんが登場しているが、俳優の井浦さんに負けていない。やっぱり確固とした専門を持っている人が、それについて語るとき(しかも熱心な聞き手を得たとき)の表情はいいものだな。
なかでも面白かったのは保存科学の神庭先生の章。ふだん一般参観者が見ることのできない「ウラ東博」を見せてくれる。地下の刀剣修復室で、客員研究員として刀剣の修復を担当している研師(とぎし)の小野博柳氏を訪ねにいくと、裸電球の下(あえて昔の光のままにしているそうだ)、板の間に素足で座って、水の入った木桶を脇に置いて、研いでいらっしゃる。「今研いでいる刀はいつ頃作られたものですか?」「南北朝時代です」という何気ない会話がすごい。
東洋館3階のミイラ展示ケースの下には、低酸素維持装置が設置されており、展示と同時に保存に適した環境が実現されている。掛け軸の劣化を予防する「簡易万能太巻芯」(鈴木式と呼ぶそうだ)を手に持ったり、修復専用の高精度ルーペを装着させてもらった井浦さんは、どこまでも無防備に驚き、嬉しそうである。でも、残念ながら「国宝の修理室」は撮影禁止とのことで、現場の写真がなかった。現在は、狩野永徳の『檜図屏風』を修復中と文章には説明があったが、どうしてかなあ。『檜図屏風』は東博の所蔵だから、作品の所蔵権の問題ではないらしい。保存技術の秘密保持? それとも館内のどこでこうした修復が行われているかを特定されると危険があるのだろうか。などと、いろいろ勘ぐってみる。
本書は「東京国立博物館の巻」というのだから、ほかの美術館を紹介する続巻も出ると嬉しい。しかし、それ以上に、文化財の修復保存の現場を井浦さんが案内する1冊が出たらいいのに、と思った。写真は、グレート・ザ・歌舞伎町氏。