○京都国立博物館 特別展観 第100回大蔵会記念『仏法東漸-仏教の典籍と美術-』(2015年7月29日~9月6日)
京博に到着してはじめて、会場が平成知新館であることに気づく。1階の第2~6室(仏像ギャラリー以外)が全て使われていた。最初の第2室は経典がずらり。天平時代の古経の端正で美しいこと。逸翁美術館の「雙感無量寿経」に心を奪われた。奈良時代後期(8世紀後半)の写経は肉太で大粒の文字が特徴。なるほど、全然印象が違う。北宋の「付法蔵伝」は墨の色が濃く、力強くて好きだ。
紺紙金字の「大宝積経」は現存最古の高麗写経だという。書風が遼や契丹の影響を受けているというのも(よく分からないけど)興味深い。朱筆で「江州金剛輪寺」なんとかとあるのが読めた。知恩寺所蔵の「梵本貝葉断簡」は一葉のみであるけれど、平安時代に請来されたという由来に驚く。折本仕立ての「大般若波羅蜜多経」(もと長門の普光王禅寺→厳島神社→東本願寺→大谷大学図書館所蔵)は、なんと韓国の海印寺版木による最も古い印刷本だそうだ。すごいな~日本、と素直に驚く。
知恩院所蔵の「大楼炭経」は唐時代のもの。亡父・蘇定方の供養のために蘇慶節が作らせた一切経である(奥書)という解説を読んで、ん?聞いたような人名、と思ったら、蘇定方は白村江の戦いで唐軍を率いた人物である。幕末生まれの鵜飼徹定(うがい てつじょう)の蒐集というが、それまでどこにあったのだろう。中国?
第3室も引き続き、経典。延暦寺に伝わる木活字は初めて見た。約1,000個が一箱に収まっている。展示は「ごんべん」の活字を集めた箱で「訶」が大量に用意されているのが仏典用らしかった。天海版、鉄眼版と下って、最後は「大正新脩大蔵経」で、その「校訂備忘録(異字表)」や「校合内規」が大谷大学に残っているのが珍しかった。青焼きみたいな印刷だったけど、保存は大丈夫かしら。
第4~6室は、絵画、文書、仏具、工芸品などバラエティに富む。「平安密教」「鎌倉新仏教」「浄土教」が各室のテーマになっているようだった。これまで何度も見て来た『伝教大師請来目録』について、最澄の細身の楷書と、その後に続く明州長官・鄭審則の重厚な行書の対比がすばらしい、という解説が面白かった。鄭審則は通行許可を出しているだけなんだが「孔夫子云吾聞西方有聖人焉」と重々しく始まっている。神護寺の『弘法大師像』(互御影)は、顔も身体もほぼ闇の中に沈んでいるが、両目の存在がうっすら分かって怖い。宗峰妙超の墨蹟『関山』は可愛いなあ。体を曲げたような「関」の字が、ふなっしーに見えてくる。
なお「第100回大蔵会記念」の「大蔵会(だいぞうえ)」とは、仏教にかんする典籍の展観を中心とした仏教行事で「大正4年(1915)、大正天皇の即位式を記念して始まって以来、毎年開催され、今年は100回目という大きな節目を迎えることになりました」とホームページに説明されている。分かったようでよく分からない。何年か前、東京の根津美術館で見たのは「大蔵会」じゃなかったかなあと曖昧な記憶を探っているのだが、何も記録が出てこない。全く勘違いかもしれないが、書きとめておく。【9/8補記:「大師会」の記憶違いでした。】そのほかの常設展示は別稿で。