見もの・読みもの日記

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最強の芸術家兄弟/光琳と乾山(根津美術館)

2018-04-24 22:53:51 | 行ったもの(美術館・見仏)
根津美術館 特別展『光琳と乾山:芸術家兄弟・響き合う美意識』(2018年4月14日~5月13日)

 光琳か。『燕子花図屏風』の季節だものな、くらいの気持ちで行ったら、とてもいい展覧会だった。尾形光琳(1658-1716)と尾形乾山(1663-1743)は、5つ違いの芸術家兄弟。ときに相反し、ときに響き合う美の世界と美意識の交流を探り、それぞれの魅力を見つめ直す企画である。同様のテーマを掲げた、2007年の出光美術館の展覧会『乾山の芸術と光琳』も面白かったことを記しておこう。

 はじめに光琳の屏風作品5件から。展示室に入ったとたん『燕子花図屏風』が目に入るが、冒頭は『秋草図屏風』(サントリー美術館)である。全く存在を意識したことのない屏風だったけど、とてもいい。細部に注目すると、気になるのは菊。普通に描かれたもの、エンボス加工みたいに立体的なもの、黄色やピンクをただ丸く塗って「花」を示したものもある。茎や葉も、緑色で描いたものと、墨の濃淡で描いたものがある。一方、ススキの茎と葉を金泥だけで描いたものも。とにかく発想が自由だ。

 『燕子花図屏風』は何度も見ているが、少しずつ印象が違う。パターン模様みたいな作品だと思っていたのに、今回、右隻を近くでまじまじ眺めたら、花の傾きや葉のゆらぎが、リアルな自然風景のように思えてきた。あと、右隻のほうが明るい青が多く、左隻は紺が強い。『夏草図屏風』は、金屏風の右上から左下へ、流れ落ちるような夏草の列が贅沢で豪奢。『太公望図屏風』(京博)と『白楽天図屏風』は、造形感覚がとんがりすぎてて奇妙、でもほのぼのして大好き。アクセントの金色が効いている。光琳屏風の名作をこんなに一度に見せてもらって感謝しかない。

 そして普通の書画に続くのだが、『李白観瀑図』(ブリヂストン)『黄山谷愛蘭図』(MOA)『兼好法師図』(MOA)と、よくぞ見つけてきてくれた!と心ときめく作品が並ぶ。このおじさんトリオ、座り方がそれぞれ可愛い。李白は表情もいい。次に光琳画・乾山作の『銹絵寒山拾得図角皿』(京博)が登場する。巻物を広げた寒山と箒を持った拾得。寒山は光琳、拾得は乾山になぞらえられるという(この説、『乾山の芸術と光琳』でも言及されていた)。第1室は、乾山のやきものは数点しかないのだが、『銹絵牡丹図角皿』(MIHO)や『銹絵楼閣山水図四方火入』(大和文華館)など、きわめつきの名品が並んでいて嬉しかった。

 第2室は乾山の書画を特集。『定家詠十二ヶ月和歌花鳥図』のように、乾山のやきものと結びつく書画もあれば、そうでないものもあった。伝統に倣った破墨山水図もあれば、巧拙を超越したような墨画もある。「個人蔵」の表記が目立ったが、乾山の書画のコレクターがいらっしゃるのだろうか。『滝図』には「七十歳」、『波図』には「八十一老翁」の書き入れがあった。『波図』の「招き猫の手」のような波頭(この表現、うまい)は『武蔵野隅田川図乱箱』(大和文華館)の内箱の絵とよく似ている。

 これで終わりかー。もう少し乾山のやきものがあってもよかったな、と思いながら上の階に上がったら、特別展がまだ続いていて、第5室が乾山のやきもの(絵のあるうつわ)の特集になっていた。お見それしました。銹絵もいいし、色絵もいい。注目の品のひとつが『銹絵蘭図角皿』で、表書は「画師渡辺素信」に書いてもらったという乾山自筆の注記が裏面にある。表の画賛は素信=渡辺始興の筆であるということだ。

 私がいちばん気に入った作品は『色絵菊流水図角皿』。縦横が30センチ近くある最大級の角皿で、右上から左下に下る流水文を藍色で描き、左上半分に籬の菊の絵が添えられている。この菊が、黄色い丸と墨色(何故?)の丸の集まりなのだ。でも菊だと分かるのが面白い。そして、角皿の右側面と左側面は流水文なのに対して、左側面には菊花が描かれている。(上側は見えず)。片身替わりの着物みたいで、とってもお洒落。イセ文化財団所蔵の文字を見て、ああ、イセコレクションか…(さすが)と思った。

 湯木美術館の名前もいくつか見た。『銹絵染付絵替筒向付』10客は、なるほど日本料理店「吉兆」の創業者・湯木貞一のコレクションにふさわしい。でもこれ、どんな料理を盛り付けるのだろう。向付や蓋物は、どうしても料理の取り合わせを考えてみたくなる。

 第6室は、全体にさわやかな「初風炉の茶」。庭園の燕子花(なのか?)は咲き始めというところだった。
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