見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

北から南へ駆け抜ける/百花繚乱列島(千葉市美術館)

2018-04-16 22:25:40 | 行ったもの(美術館・見仏)

千葉市美術館 『百花繚乱列島-江戸諸国絵師(うまいもん)めぐり-』(2018年4月6日~5月20日)

 江戸時代中後期、日本各地に現れた実力派絵師達の作品によって、江戸絵画の豊穣を体感する展覧会。出展作品約190点ということだが、むしろ絵師の人数が気になる。ざっと数えたところ80余人。私は江戸絵画には関心を持っているほうだが、全く初めて聞く名前もずいぶんいた。前日に府中市美術館の『リアル:最大の奇抜』を見てきたところで、重なる名前がけっこう目についた。

 千葉市美術館は、中央区役所と同じビルの7-8階にあるのだが、8階展示室の出口と入口が、いつもと逆になっているのが変な感じだった。日本画の展覧会なのに、巡路が左→右になってしまうのがなんとなく気持ち悪かった。第1室には「松前」という札が下がっていて、なるほど北から南へ向かうのだな、と理解する。「北海道」でも「蝦夷」でもなく「松前」にしたのは正解。『夷酋列像』で有名な蠣崎波響の作品が5件あったが、いずれも知らないものばかり。うち4件は個人蔵だった。『雪郊双鹿図』は、体を寄せ合う鹿の小さな後ろ姿がかわいい。『カスベ図』は高橋由一の鮭みたいに、ぶら下げされたカスベ(エイ)の図。美味そう。

 秋田蘭画の佐竹曙山、佐竹義躬、小田野直武は納得。仙台は省略して、陸奥国須賀川(現在の福島県)生まれの亜欧堂田善。『三囲雪景図』いいなあ。私は自分が川沿いで生まれ育ったせいか、このひとの描く土手堤の絵になつかしさを感じる。京都のイメージの強い岸駒が、生国(異説あり)の金沢で出てきて意表を突かれた。本展では「出身地」と「活躍地」が異なる絵師が他にも何人かいた。

 水戸生まれの林十江も好き。『木の葉天狗図』の可笑しさともの哀しさ。栃木の小泉斐は大作『黒羽城鳥瞰図』を見ることができた。河岸段丘とか宿場町の形成とか、自然地理と人文地理の両方の興味を刺激される。江戸生まれの椿椿山が栃木に分類されているのは、下野の豪商の支援を受けていたら? 交友のあった高久霞厓の肖像画が面白くて(あまりにも素直にオッサンぽくて)笑ってしまった。

 さて江戸は、宋紫石、司馬江漢、谷文晁、酒井抱一などビッグネームが多数。それから東海道を西へ向かう。尾張の丹羽嘉言、中林竹洞は知らなかったが、清明な山水画がとても気に入った。明清の中国絵画みたい。山本梅逸の花卉図の繊細なこと。近江の紀楳亭は、大津絵みたいな抜けた絵で面白かった。

 京は円山応挙、曽我蕭白、中村芳中。鶴亭はもうちょっと鶴亭らしい作品がよかったな。大坂の浮世絵師・北尾雪坑斎の作品は、単純化した造形が面白かった。京都の銅版画、大坂の浮世絵にも目配り。中国・四国は、美作の廣瀬臺山、飯塚竹斎を知らなかった。やっぱり明清絵画との親近性を感じる。鳥取は土方稲嶺、黒田稲皐(鯉の)など、個性的な画家がいるのだな。長崎生まれの片山楊谷は鳥取に分類。モフモフの虎3匹(彩色、墨画、白虎)を3幅対に描いた『虎図』など、とにかくアクが強い。但馬温泉で入浴中に死んでしまったのか。

 長崎は熊斐だけ?と思ったが、後期には川原慶賀も展示されるらしい。最後に、青い花瓶(色ガラス?)に活けた牡丹一輪のさっぱりした絵があって、誰?と思ったら、薩摩の島津斉彬だった。ちょっとオチをつけたような感じ。沖縄はないのかあ、と残念に思ったが、やっぱり江戸時代の琉球は違う世界なのだろう。

 それにしても、本展に出品されている絵師たちのうち、私が学校教育で名前を教わったのは、葛飾北斎と歌川広重くらいだろうか。いろいろな美術館のおかげで、この豊饒な世界を知ることができてよかった。まだまだ私の知らない魅力ある絵師がたくさんいるにちがいないと思うと、人生は本当に楽しい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする