〇三井記念美術館 没後200年 特別展『大名茶人・松平不昧-お殿さまの審美眼-』(2018年4月21日~6月17日)
不昧(ふまい)こと松江藩第七代藩主・松平治郷(はるさと、1751-1818)の没後200年を記念する特別展。不昧が愛蔵した名品の数々、さらに自筆の書画や好んで作らせた器などを紹介する。近世の茶の湯は、あまり得意分野ではないなあと思いながら行ってみた。
冒頭にはキラキラした『油滴天目』。きゅっと締まった小ぶりの茶碗で、金の覆輪が輝きを添えている。古田織部、松平不昧の旧蔵品で、現在は九博の所蔵品(国宝)であるが、九州へ行っても、いつも見られるわけではない。これは思わぬ眼福だった。茶道具がいろいろ並ぶ中に『玳玻盞 梅花天目』(相国寺・国宝)は地味に埋もれていた。不昧は朝鮮の茶碗を好んだようで、井戸茶碗、斗々屋茶碗は目立って多かった。これらは朝鮮の日用雑器として作られたもので、素朴で侘びたたたずまいが魅力だというが、私はどうもよく分からない。最大の注目は大井戸茶碗『銘:喜左衛門井戸』(大徳寺孤蓬庵・国宝、5/22まで)だろう。え?国宝の茶碗は8件しか存在しないのに、そのうち3件がここに来ているということ?と気づいて驚く。
『喜左衛門井戸』は、比較的大ぶりで、茫洋とした雰囲気を持つ。口輪は水平でなく適当に歪んでいて、高台まわりの梅華皮(かいらぎ)釉が目立ち、決して「きれい」な姿ではない。裏側には、魚形あるいは木の葉形?の釉薬の抜け(火間)がある。ネットで検索すると、不穏な「呪い」の伝説まで持つようだ。好きな人にはたまらないのだろうなあと思って、ぼんやり眺める。
個人的には、長次郎の赤楽茶碗『銘:無一物』(潁川美術館)を見ることができて嬉しかった。赤というよりピンクに近い薄い色で、半透明の白い釉薬が掛かっている。本阿弥光甫の『信楽芋頭水指』(湯木美術館)は斬新な造形感覚に驚いた。ほぼ球形で、椰子の実の上下を切って立たせたようなかたちをしている。包帯を巻いたように立ち上がっていく表面の切れ味も鋭い。本阿弥光甫は光悦の孫で、空中斎と号し、信楽焼を得意としたという。いいものを見せてもらった。
もうひとつ、私が喜んだのは茶掛けの書画の数々である。東博や京博から集められてきた墨蹟がすごい。虚堂智愚の『与照禅者偈頌』は一字一字が個性的で、魅入られてしばらく前を動けなかった。いや、今さら何を言っているかという話である。国宝だし。これは、京の豪商が所蔵していたとき、丁稚が倉に立て籠もり、主人の愛蔵の茶器を壊し、本作を切り破って自殺した事件があって、以来「破れ虚堂」と呼ばれているという。くわばらくわばら。無準師範(国宝)、兀庵普寧(重文)もあり。さらに中国絵画は梁楷筆『李白吟行図』が東博からおでまし(-5/4まで)。そういえば、これが松平不昧の旧蔵品だということは、どこかで見たなと思い出した。2017年の東博『茶の湯』展だったようである。牧谿筆『遠浦帰帆図』(京博、-5/11まで)が見られたのもうれしい。題名どおり、画面の右半分の靄の中を二艘の舟が、大きく帆をふくらませて走っている。
不昧自身の書画や著書もいろいろ出ており、不昧が隷書を好んだ(得意とした?)という解説が面白かった。古い書体であることは承知しているが、日本の茶人や文化人の間ではいつ頃から流行するのだろう? 書籍は、出光美術館所蔵の『雲州蔵帳 貴重品目録』や島根大学附属図書館所蔵の『古今名物類聚』が出ていた(島根大のものは版本?)。関係の深い芸術家として、原羊遊斎の蒔絵(棗など)がたくさん出ていたのと、谷文晁筆『雲州侯大崎別業真景図巻』が印象的だった。不昧が隠居した、松江藩の江戸下屋敷が大崎にあったことを初めて知った。「茶室テーマパーク」みたいな巨大な庭園を有していたらしい。うらやましい。あと不昧公については『豆腐自画賛』が好き。豆腐の絵に「世の中はまめで四角でやわらかで豆腐のようにあきられもせず」という和歌を添える。民間の口碑らしいが、洒脱でやわらかな人となりが想像できる。
余談だが、三井記念美術館を出て、中央通りを渡って日本橋方面に歩くと「にほんばし島根館」がある。「不昧公好み」の松江の和菓子が食べたくなったので寄ってみた。松江三大銘菓といわれる「若草」「山川」「菜種の里」のお得なセット(島根館限定)もあったが、彩雲堂の「若草」3個入(※不昧公二百年祭記念パッケージ)にした。特別展の期間中だけでも三井記念美術館のカフェやミュージアムショップとコラボしてくれればいいのに、惜しまれる。
不昧(ふまい)こと松江藩第七代藩主・松平治郷(はるさと、1751-1818)の没後200年を記念する特別展。不昧が愛蔵した名品の数々、さらに自筆の書画や好んで作らせた器などを紹介する。近世の茶の湯は、あまり得意分野ではないなあと思いながら行ってみた。
冒頭にはキラキラした『油滴天目』。きゅっと締まった小ぶりの茶碗で、金の覆輪が輝きを添えている。古田織部、松平不昧の旧蔵品で、現在は九博の所蔵品(国宝)であるが、九州へ行っても、いつも見られるわけではない。これは思わぬ眼福だった。茶道具がいろいろ並ぶ中に『玳玻盞 梅花天目』(相国寺・国宝)は地味に埋もれていた。不昧は朝鮮の茶碗を好んだようで、井戸茶碗、斗々屋茶碗は目立って多かった。これらは朝鮮の日用雑器として作られたもので、素朴で侘びたたたずまいが魅力だというが、私はどうもよく分からない。最大の注目は大井戸茶碗『銘:喜左衛門井戸』(大徳寺孤蓬庵・国宝、5/22まで)だろう。え?国宝の茶碗は8件しか存在しないのに、そのうち3件がここに来ているということ?と気づいて驚く。
『喜左衛門井戸』は、比較的大ぶりで、茫洋とした雰囲気を持つ。口輪は水平でなく適当に歪んでいて、高台まわりの梅華皮(かいらぎ)釉が目立ち、決して「きれい」な姿ではない。裏側には、魚形あるいは木の葉形?の釉薬の抜け(火間)がある。ネットで検索すると、不穏な「呪い」の伝説まで持つようだ。好きな人にはたまらないのだろうなあと思って、ぼんやり眺める。
個人的には、長次郎の赤楽茶碗『銘:無一物』(潁川美術館)を見ることができて嬉しかった。赤というよりピンクに近い薄い色で、半透明の白い釉薬が掛かっている。本阿弥光甫の『信楽芋頭水指』(湯木美術館)は斬新な造形感覚に驚いた。ほぼ球形で、椰子の実の上下を切って立たせたようなかたちをしている。包帯を巻いたように立ち上がっていく表面の切れ味も鋭い。本阿弥光甫は光悦の孫で、空中斎と号し、信楽焼を得意としたという。いいものを見せてもらった。
もうひとつ、私が喜んだのは茶掛けの書画の数々である。東博や京博から集められてきた墨蹟がすごい。虚堂智愚の『与照禅者偈頌』は一字一字が個性的で、魅入られてしばらく前を動けなかった。いや、今さら何を言っているかという話である。国宝だし。これは、京の豪商が所蔵していたとき、丁稚が倉に立て籠もり、主人の愛蔵の茶器を壊し、本作を切り破って自殺した事件があって、以来「破れ虚堂」と呼ばれているという。くわばらくわばら。無準師範(国宝)、兀庵普寧(重文)もあり。さらに中国絵画は梁楷筆『李白吟行図』が東博からおでまし(-5/4まで)。そういえば、これが松平不昧の旧蔵品だということは、どこかで見たなと思い出した。2017年の東博『茶の湯』展だったようである。牧谿筆『遠浦帰帆図』(京博、-5/11まで)が見られたのもうれしい。題名どおり、画面の右半分の靄の中を二艘の舟が、大きく帆をふくらませて走っている。
不昧自身の書画や著書もいろいろ出ており、不昧が隷書を好んだ(得意とした?)という解説が面白かった。古い書体であることは承知しているが、日本の茶人や文化人の間ではいつ頃から流行するのだろう? 書籍は、出光美術館所蔵の『雲州蔵帳 貴重品目録』や島根大学附属図書館所蔵の『古今名物類聚』が出ていた(島根大のものは版本?)。関係の深い芸術家として、原羊遊斎の蒔絵(棗など)がたくさん出ていたのと、谷文晁筆『雲州侯大崎別業真景図巻』が印象的だった。不昧が隠居した、松江藩の江戸下屋敷が大崎にあったことを初めて知った。「茶室テーマパーク」みたいな巨大な庭園を有していたらしい。うらやましい。あと不昧公については『豆腐自画賛』が好き。豆腐の絵に「世の中はまめで四角でやわらかで豆腐のようにあきられもせず」という和歌を添える。民間の口碑らしいが、洒脱でやわらかな人となりが想像できる。
余談だが、三井記念美術館を出て、中央通りを渡って日本橋方面に歩くと「にほんばし島根館」がある。「不昧公好み」の松江の和菓子が食べたくなったので寄ってみた。松江三大銘菓といわれる「若草」「山川」「菜種の里」のお得なセット(島根館限定)もあったが、彩雲堂の「若草」3個入(※不昧公二百年祭記念パッケージ)にした。特別展の期間中だけでも三井記念美術館のカフェやミュージアムショップとコラボしてくれればいいのに、惜しまれる。