見もの・読みもの日記

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日本中世の人と自然/国宝一遍聖絵と時宗の名宝(京博)

2019-04-18 23:40:29 | 行ったもの(美術館・見仏)

京都国立博物館 特別展・時宗二祖上人七百年御遠忌記念『国宝一遍聖絵と時宗の名宝』(2019年4月13日~ 6月9日)

 土曜日、関西を目指す新幹線の車中で、おや、今日から京博の『一遍聖絵』展から始まっているんだ、と気づいた。奈良博を早めに切り上げることができたので、夕方から京博に入った(週末旅行者にとって、土曜の夜間開館は本当にありがたい)。

 時宗の宗祖・一遍(1239-1289)の生涯を描いた『一遍聖絵』12巻をまとめて見たことは何度かある。いちばん最近は、2015年に東京と神奈川の4つの博物館で行われた連携展『国宝 一遍聖絵』である。2002年に京都国立博物館と奈良国立博物館で全巻展示が行われたときも見ている。

 展覧会は、平成知新館のほぼ全体を使って行われている。3階は、時宗ゆかりの寺院が所蔵する仏画や仏像などの名宝。藤沢の遊行寺くらいしか知らなかったので、奈良市十輪院の興善寺や和歌山の興国寺、京都の金蓮寺など、意外な名前や初めて聞く名前を興味深く眺めた。熊野信仰にかかわる図が複数あり、座って眠る一遍の夢枕に行者姿の熊野権現が示現する様子を描いた『熊野成道図』(京都・長楽寺)が面白かった。春日明神は明恵さんが大好きだが、熊野権現は一遍さんが好きなんだな。

 2階は全5室を使って『一遍聖絵』12巻のうち11巻を展示。ただし各巻とも一部分だけ広げ、他の場面は近代の模本(武内雅隆筆、京博所蔵)で補うかたちをとっている。たいへん丁寧な模写なので、感興が削がれることはない。私が好きなのは、巻2の岩屋寺の図とか、巻6の富士山とか(しかしこれは入水の場面なのである)。巻7の京の市中で大勢の人を集めての踊り念仏の場面も好き。巻8の海上で龍が昇天する場面もよい。巻8は一遍の臨終よりも、海に身を投げる弟子たちの姿が好き。

 『一遍聖絵』と言いながら、一遍はいつも弟子たちを引き連れ、集団で行動している。その外側には、お布施をしたり賦算を受けたり、踊り念仏を見物したり、時宗集団を見守る人々がいて、さらに外側には、時宗集団に何の関係もなく、畑を耕し、道端にたたずみ、日々の暮らしをおくる人々がいる。そうした小さな人間の営みを全て包み込む、四季の自然。何度見ても味わいの増す絵巻で、小さな登場人物ひとりひとりの表情から、多彩な感情や性格がうかがえる。

 本展は、一遍の諸国遊行に従い、時宗を教団として大きく発展させた二祖・真教上人(他阿、1237-1319)の七百年遠忌を記念する展覧会で、3階には真教の肖像画(撫で肩で、自信なさげにうつむく)が数点、1階には木像も出ていた。神奈川・蓮台寺の真教上人坐像(鎌倉時代)は、晩年、左右非対称にゆがんでしまった容貌を写実的にあらわしている。理想化された高僧像とは異なり、人間らしいリアリティがあって慕わしい。調査によって、没する前年に製作された寿像であると分かったそうだ。

 京都・金蓮寺に伝わる時宗四条派の祖・浄阿真観上人の肖像画もよかった。その金蓮寺所蔵の『阿弥陀浄土変相図』(南宋~元時代)は後期展示なので見られなかったが、図録を見てかなり気になったので書き留めておく。中国絵画だが素朴絵ふうで、かなり変わっている。滋賀・浄信寺の『四天王像』(鎌倉時代、かなり南宋絵画ふう)は見ることができたが、仏画を見るなら後期のほうがいいかもしれない。

 後期(5/14-)には『洛中洛外図屏風』(舟木本)も登場。しかし、あれは何度も見ているので、関東人的には見る機会の少ない『洛中洛外図屏風』(仏教大学附属図書館所蔵、17世紀)を前期に見ることができてよかったと思う。

※なお、見どころなど、京博・公式キャラクターとらリンの「虎ブログ」の解説が分かりやすくておすすめ。

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