見もの・読みもの日記

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出土品でたどる古代/出雲と大和(東京国立博物館)

2020-02-09 23:54:12 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京国立博物館 日本書紀成立1300年特別展『出雲と大和』(2020年1月15日~3月8日)

 2020年は「日本書紀」が編纂された養老4年(720)から1300年にあたる。まあそれはよいとして、本展の開催趣旨をあらためて読んでみたら、日本書記の国譲り神話において、出雲大社に鎮座するオオクニヌシは「幽」、天皇は大和の地において「顕」を司るとされていることにちなみ、「幽」と「顕」を象徴する出雲と大和、島根県と奈良県が東博と共同で展覧会を開催するのだという。なんだか、取ってつけたような開催理由だなと思った。むしろ日本書記より古事記のほうが、出雲とオオクニヌシに親和的なイメージがあるのだが、私の記憶違いだろうか?

 ともかく、上記のようなコンセプトなので、会場の冒頭には天理図書館所蔵の『日本書紀・乾元本』(鎌倉時代・巻子本)の該当箇所が広げてあった。このほか天理図書館からは『古事記・道果本』(南北朝時代)や『播磨国風土記』(平安時代・三条西家旧蔵本)も来ていて、さすがだった。

 はじめの会場は出雲を中心に。2000年に出雲大社境内で出土した『宇豆柱』と『心御柱』や巨大な出雲大社本殿の模型が来ていた。そのほか、出土品の勾玉、銅矛、須恵器もあったが、鎌倉時代の釘、室町時代の鎧、江戸時代の御簾などが混然としていて、ちょっと時代感覚が混乱した。

 次の部屋へ進むと、加茂岩倉遺跡出土の銅鐸、荒神谷遺跡出土の銅剣・銅矛・銅鐸などがびっしり並んでいて(数で圧倒される)ようやく「古代出雲」の空気に触れた気になる。両刃で中央に鎬(しのぎ)を持つ、細身で扁平な銅剣は、後世の日本刀とは異質な姿だが、中国古装ドラマではなじみの武器である。倚天剣を思い出しながら見ていた。

 後半は大和が中心。黒塚古墳から出土した三角縁神獣鏡33面と画文帯神獣鏡1面が全て来ていた。橿原考古学研究所附属博物館の特別展『黒塚古墳のすべて』で見たことを思い出し、さらにドラマ『鹿男あをによし』を思い出して、懐かしかった。三角縁神獣鏡は島根県でも出土していて、その1面は「景初三年」の年号を持つ舶載品であることから、卑弥呼に贈られた可能性が高いとされている。魏の宮廷では司馬懿が曹叡(明帝)に手を焼いていた頃だな、とまた中国ドラマを思い出したりする。

 大和地方の古墳は、それぞれ出土品に個性があって面白かった。石釧や車輪石など石製品の多い島の山古墳、巨大な野焼き焼成の埴輪を有する宮山古墳、準構造船部材(8メートルを超える大型船の一部)が出土した巣山古墳など。ヤマト王権は大陸との交流により、さまざまな文物や技術を導入した。

 五條市五條猫塚古墳出土の『蒙古鉢型眉庇付冑』(5世紀)には驚いた。ドラマ『三国機密』で使われていた冑にそっくり。ただし眉庇を付けたのは日本オリジナルだそうだ。石上神宮の七支刀、藤ノ木古墳出土の馬具などは、初めて見るものではないが、じっくり見ると新しい発見があった。藤ノ木古墳出土の『金銅装鞍金具』には、さまざまな動物や異形の怪物(鬼神?)が描かれているのだな。

 初めて存在を知ったのは、石上神宮で「日の御盾」と称されているという鉄盾2面。シンプルな長方形で、大人が身をかがめて後ろに隠れるに十分な大きさだ。全体に鉄鋲で補強されており、儀礼用ではなく実戦用に思える。これもよく中国ドラマで、盾を隙間なく組み合わせて、敵の飛び道具を避ける場面が出てくるヤツだ。

 最後は「仏の伝来と政(まつりごと)」と題し、大和・出雲の古仏が紹介されていた。島根からは鰐淵寺の観音菩薩立像2躯、萬福寺(大寺薬師)の四天王像など。記憶を掘り起こすと、島根県立石見美術館の『祈りの仏像-石見の地より-』や京博の特別展観『山陰の古刹・島根鰐淵寺の名宝』で見たものではあったが、再会できて嬉しかった。特に私は、生命感にあふれる萬福寺の四天王像(平安時代)が好き。大和からは、当麻寺の持国天立像が来ていた。悪そうな顔で、曹操のイメージである。石位寺の浮彫伝薬師三尊像は初めて見た。おにぎりみたいな三角形の石(やわらかそう)に倚像の薬師如来と立像の脇侍を刻む。屋内で保管されていたせいか、7-8世紀の作とは思えない明確な彫り。寺外で公開されるのは初めてだそうで、これを見るためだけでも、本展は行く価値がある。

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