〇『Pen』2020年2/15号「特集・平壌、ソウル」 CCCメディアハウス 2020.2
ソウルの特集を組む雑誌はそこそこ見るが「平壌」の文字に引き付けられて、店頭でページをめくった。平壌についての情報が、ソウルと同じ比重、もしかしたらソウルより多いくらい掲載されていることを確かめて、これは買ってみようという気持ちになった。
特集の冒頭は、写真家・菱田雄介の写真で構成されている。2009年から韓国と北朝鮮で、共通するテーマの被写体を撮影している。赤いマフラー、青い吊りスカートで、エレキギターを抱える北朝鮮の少女と、紺のブレザーの制服姿でギターを抱える韓国の少女。金日成と金正日の巨大な銅像の立ち広場に粛々と集まる平壌市民たちと、文在寅大統領候補の演説を聞くために夜の光化門広場に集まったソウル市民たち。板門店の北側と南側、など。率直に言って、建物や風景は異なっても、ひとりひとりの人間の顔はそんなに変わらない印象である。
韓国出身の女性映画監督チョ・ソンヒョンは、2016年、北朝鮮の「普通の暮らし」を取材したドキュメンタリー映画『ワンダーランド北朝鮮』を製作した。雑誌には、この映画の一場面らしい、リラックスした表情の北朝鮮の人々の写真が掲載されている(ちなみに、この映画のドイツ語タイトルは『北の兄弟姉妹』の意味らしい。日本語タイトルは古いステレオタイプにおもねっていると思う)。また、2010年以降、幾度となく北朝鮮を訪れた写真家・初沢有利は、平壌の若者の姿をリアルに捉えている。恋人と顔を寄せ合う、ピンクのシャツのおしゃれな若者など、これが北朝鮮?!とびっくりする風景もある。
平壌にはビアホールもハンバーガーショップもあるという。1990年代の中国を思い出して、ちょっと平壌に行ってみたくなったところで、追い打ちをかけられたのが、平壌の建築特集。金日成は、スターリン時代のソ連にならって新古典主義様式を基本路線とした。二代目金正日は芸術家肌で、モダニズム建築を好んだ。光復通りのニュータウンとか高麗ホテルとか、見たい! 平壌氷上館(スケートリンク)もよい。三代目金正恩が推し進める都市計画はさらに未来的。科学技術殿堂(展示場。電子図書館も入る)や柳京ホテル。たとえハリボテでも、こういうフォルムの建造物のある都市、とても面白い。平壌の風景ってこんなになっていたのか。
そのほか、北朝鮮の音楽トレンド、グラフィックアート、なぜか唐突に高句麗古墳群の壁画の紹介、平壌冷麺の紹介もある。ソウルの記事もそれなりにあるのだが、平壌の印象が強すぎてあまり印象に残らなかった。でもソウルも、最後に行ったのは10年以上前になるので、そろそろ再訪してみたい。
朝鮮半島の歴史もコラムふうに簡単にまとまっている。日本の関与についてはあっさり書き流している感じだが、まずは映画とか音楽とか建築から、この両国に興味を持ってもらうのでいいのではないか。