見もの・読みもの日記

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まだ地下にいる/映画・パラサイト 半地下の家族

2020-02-08 23:51:57 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇ボン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』(2019年)

 話題の映画を見てきた。なるべくネタバレは避けていたが、「怖い映画だ」という感想は聞いていたし、数種類あるポスターの一部には、横たわる死体(?)の足が映し込まれたデザインがあることも知った上で、不穏なストーリーを覚悟して見に行った。しかし怖かった。前半の、不可解で不合理だが、なんとか日常とつながった世界が、終盤で一気に崩壊して「別世界」に行ってしまう感じが怖かった。

 失業中のキム・ギテクと妻・息子・娘の四人家族は、半地下アパートに住み、わずかな内職収入をたよりに極貧生活をしていた。あるとき、息子ギウは、大学生の友人ミニョクから、自分が留学する間、パク家の家庭教師をつとめてくれないか、と頼まれる。学生証を偽造し、大学生になりすましたギウは、丘の上の豪邸に住むパク家を訪ね、若くて単純なパク夫人に気に入られ、女子高生ダヘの心もつかむ。

 パク家の幼い息子ダソンはインディアンごっこに夢中の悪戯っ子で、パク夫人を悩ませていた。絵の家庭教師を探していると聞いたギウは、知り合いの専門家を紹介すると言って、妹ギジョンを送り込む。さらにギジョンはパク氏の運転手として、父キム・ギテクを送り込む。こうして一家四人のうち三人が高収入の仕事を得ることに成功するが、唯一目障りなのは、長年パク家に仕えている家政婦だった。三人は計略をめぐらせ、ついに家政婦を追い出し、代わりにキム家の母チュンスクを送り込むことに成功する。

 パク家の四人がキャンプ旅行に出かけた晩、キム家の四人はパク家の豪邸で酒盛りをし、我が家のようにくつろいでいた。天候が悪化し、大雨の中、解雇された元の家政婦がインターホンに現れ「地下室の忘れ物をしたので取りにきた。入れてほしい」と哀願する。

 以下【ネタバレ】になるが、パク家の豪邸は、地下室のさらに下に隠し部屋(北朝鮮のミサイルに備えたシェルター)があり、そこに家政婦の夫が、借金取りから逃れて隠れ住んでいたのだ。はじめは低姿勢だった家政婦だが、キム家の四人がぐるであることに気づくと、パク家にばらすと騒いでキム家を追いつめ、キム家に代わって、パク家のリビングで堂々とくつろぐ。そこへ、大雨のため、予定を変更して帰宅するというパク夫人からの電話。進退窮まったキム家の四人は、力づくで家政婦とその夫を地下室へ押し込め、悪事の露見を回避する。チュンスクをパク家に残し、ずぶ濡れで我が家に戻ったギテクと子供たちは、半地下の家が屋根近くまで水に浸かり、家財の一切を失ったことを知る。

 翌日は天気も回復し、パク家の庭ではダソンの誕生日パーティが開かれることになった。招待に応じて集まっていくる上流人士たち。キム家の四人もその中に紛れていたが、ついに自力で地下室を脱出した家政婦の夫が刃物を持って現れ、復讐の惨劇が始まる。

 惨劇の直前、ギジョンはチュンスクのつくる料理を味見しながら「これを地下の二人にも持っていってあげよう」と話してたが、パク夫人が話に割り込んだため、実現しなかった。それから、鼻持ちならないエリートのパク社長は、キム・ギデクの「臭い」が我慢ならないと言いながら(これはギデクに聞かれてしまう)、別のところでは「一線を踏み越えない態度はとてもよい」と評価している。こうした好意が相手に伝わっていたら、惨劇は避けられたかもしれないのに、小さなボタンの掛け違えから、とてつもなく大きな不幸が起きるところに現実味があって、とても怖い。

 また、物語の序盤に、ギウが友人ミニョクから「富をもたらす」山水景石を貰うシーンがある。ここからキム家の幸運がスタートするのだが、惨劇の引きがねになるのもこの山水景石で、因果応報の昔話のような怖さもある。

 キム・ギテク役のソン・ガンホは、ひとつの役の中で、ユーモア、卑屈さ、狡猾さ、怒りなどの複雑な変化を表現している。映画『タクシー運転手』のときも思ったが、私の見た韓国映画(そんなに多くない)の八割方は彼の出演作品である。パク社長役のイ・ソンギュン(声がよい)、パク夫人役のチョ・ヨジュンは、本人に悪気はないが、庶民の反感を買うセレブ夫婦役にぴったり。

 結末では「実はまだ地下にいるのです」というつぶやきが胸に浮かんだ。つげ義春『李さん一家』の「実はまだ二階にいるのです」を思い出したのである(もう話の筋は忘れているにもかかわらず)。

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