〇あべのハルカス美術館 『奇才-江戸絵画の冒険者たち-』(2020年9月12日〜11月8日)
6月に江戸東京博物館で見た展覧会の巡回展をまた見に来た。大阪展の出品リストはNo. 229まであるが、実は間の番号が飛んでいるので、全170件くらい。展示替えがあるので、一回で見られるのはその半分弱である。それでも見たい作品がいくつかあって、来てしまった。
京都の絵師から始まる冒頭には俵屋宗達の『扇面貼交屏風』(醍醐寺像)。四つん這いのまま、首をくるっと上向きにした不思議な野良犬が描かれているもの。古絵巻の図様を転用しており、おおらかでのんびりした雰囲気だが、扇面という空間の使い方が独特で面白い。狩野山雪の大作が4件も見られたのにはテンションが上がった。個人蔵の『楼閣山水図屏風』六曲一双がすごくよかった!右端には人工の粋を尽くした巨大な楼閣。豆粒のように小さな人々が行き交っている。中央は湖面。遠景に丸い島影。樹木や人工物の姿はなく、強い陰影が強調されている。傍らに低い月。左端は巨大な太湖石のような(ベトナムのハロン湾のような)自然が造り出した絶景。
芦雪(この展覧会は長澤蘆雪と表記)は『岩上猿・唐子遊図屏風』(個人蔵)、蕭白は『群仙図屏風』だけだったが満足。若冲の『鶏図押絵貼屏風』(個人蔵、金地)は、類似の作品がいくつかあるが、これは生き生きした躍動感があって、出来のよいもの。狩野永岳の『西園雅集図舞良戸』(京都・隣華院)は金地の大画面に濃彩、意表をついた画面構成で気に入った。「山雪に近い魅力がある」という解説に同感。知らない名前だなあと思ったが、2016年に府中市美術館で作品を見ているようだ。
大阪~江戸では、北斎の紙本着色『南瓜花群虫図』が珍しかった。常州草虫画を思い出す。狩野一信の五百羅漢図もよい作品が来ていた。
諸国は蠣崎波響の『夷酋列像図』(函館市中央図書館)「イトコイ」を見ることができて満足。林十江は大好きな『蜻蛉図』(個人蔵)。河鍋暁斎は問題作『処刑場跡描絵羽織』が、さりげなく一般作品の列に混じって展示されていた。中央の血みどろの処刑図に目が行ってしまうが、両袖にはガス灯や電柱、洋装の男女のシルエットが描かれている。その落差に背筋が寒くなる。
会場の最後に神田等謙の『西湖・金山寺図屏風』(山口・顕孝院)の右隻「金山寺」が展示されていた。知らない画家だが、東京展のとき「事情により展示中止になりました」という断り書きが掲示されていたので記憶に残っていた。この「金山寺」がとてもよい。ペン画のような几帳面な描線、計算され尽くした画面構成で、空想上の異世界のように見える。解説によれば、「雲谷派の中には、きっと奇才がいるはずだと確信して探してもらい、ついに等謙を発見した」が、詳しいことは分からない、謎だらけの絵師だそうだ。これからの研究の進展が楽しみである。後期にもう一度、来られたら来たい。