見もの・読みもの日記

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広がるモダン文化/大東京の華(江戸東京博物館)

2020-09-01 22:55:58 | 行ったもの(美術館・見仏)

江戸東京博物館 企画展『大東京の華-都市を彩るモダン文化』(2020年8月25日~11月23日)+特別展『市民からのおくりもの2019-平成30年度新収蔵品から-』特別企画『「青」でみる江戸東京』(2020年8月4日〜09月27日)

 『大東京の華』が特別展だと思って見に行ったら、常設展示室内で開催中の企画展だった。最近、江戸博の企画展は面白いものが多くて油断がならない。本展は、近代都市・東京の始まりから、1923(大正12)年の関東大震災を経て、大規模な復興事業により生まれ変わった「大東京」の時代まで、明治、大正、昭和と発展する東京の姿を紹介する。

 はじめは洋風建築を描いた明治の錦絵『東京名所海運橋五階造真図』や『銀座煉瓦造鉄道馬車往復図』が出ていて、ふむふむ定番だな、と思ったのだが、パーティドレスみたいな洋装の女性たちがミシンやアイロンを使って洋服をつくっている『貴女裁縫之図』(安達吟光)や桜満開のテラスでくつろぐ洋装三人組を描いた『東風俗 福つくし:洋ふく』(橋本周延)など、珍しい風俗錦絵も見ることができた。この場合の「洋装」は全て、華やかだが窮屈そうなバッスルドレス(ベルサイユのばらスタイル)である。本物の明治時代のドレスも展示されていたが、小さい(背が低い)なあという印象だった。

 『髪附束髪図会』は、さまざまな髪型と帽子を切り抜いて、ドレス姿の女性の絵に合わせて遊ぶことができる。そうそう、昭和40年代には、こういう紙製の着せ替え人形で遊んでいた!と思い出して懐かしかった。展覧会の公式ページから複製をダウンロードして遊べるのはよい試み。束髪は自分で簡単に結うことができて衛生的なので推奨された、という解説を読んで、江戸時代の女性は自分で髪を結っていなかったことを知った。

 明治後期から大正の、大衆文化の広がりを象徴するのは三越呉服店のポスター。杉浦非水のデザインは、いま見ても新鮮で魅力的。妹尾幸次郎のセノオ音楽出版社が刊行した「セノオ楽譜」が多数展示されていたのも面白かった。日本の名歌や海外の歌曲(オペラのアリアとかシューベルトとか)を斬新な訳詞で紹介し、表紙は竹久夢二ら有名画家が美しいイラストで飾った。廉価で販売され、西洋音楽の大衆化に大きく貢献したという。こんなメディアがあったなんて、全く知らなかった!

 関東大震災の惨状は短く紹介して、復興の時代へ。新たな公園、橋、道路、交通手段(地下鉄など)が整備され、被災した商業ビルは面目を一新し、東京は旧15区から隣接地域を編入して、現在の東京区部の地域に拡大する。私がいま住んでいる江東区南西部は旧15区の深川区にあたるが、現在の江東区全体が東京に入ったのは関東大震災後なんだなと認識する。川瀬巴水や小泉癸巳男が版画にのこした抒情的な「大東京」の風景はどれもよい。

 昭和前期の風俗については、ショール、日傘、ワンピース、スーツなどの原物資料もあったが、師岡宏次撮影の『銀座五十年』という白黒写真のシリーズが興味深かった。1935(昭和10)年~39年頃の銀座風景で、買いものや街歩きを楽しむおしゃれで幸せそうな人々が写っている。念のため調べたら、1936年といえば二・二六事件、37年といえば盧溝橋事件の年なのだが、そんなキナ臭い匂いは微塵もないのが感慨深かった。

 なお、特別展と特別企画は無料で参観できる。むしろ特別展のほうに、新たに収集された関東大震災関連コレクションが展示されており、震災を報道する新聞、焼失した町の姿やバラックでの暮らしを写した写真、復興に向けての標語や注意が記されたポスター・ビラから、当時の状況を具体的に窺うことができた。

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