見もの・読みもの日記

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明治天皇盗撮写真も/日本初期写真史:関東編(東京都写真美術館)

2021-01-05 22:51:01 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京都写真美術館 『日本初期写真史 関東編 幕末明治を撮る』(2020年12月1日~2021年1月24日)

 写真美術館のこのシリーズが大好きで、ずっと見ている。と書いて、自分のブログを「日本初期写真史」で検索したら何も出てこないので慌ててしまった。以前のシリーズは「知られざる日本写真開拓史」で、「I. 関東編」が2007年、「II. 中部・近畿・中国地方編」が2009年、「III. 四国・九州・沖縄編」が2011年(東日本大震災の直後だった)、 「IV. 北海道・東北編」の2013年に完結した。新シリーズは、あらためて関東編からプレイバックということだろうか。

 展示は三部構成で、一章では歴史を概観し、欧州における写真発祥から日本への輸入や普及するまでの歴史と写真技術を俯瞰する。文久元年(1861)の横井小楠の肖像写真や元治元年(1864)の第二回遣欧使節の一行がパリのナダール写真館で撮った写真など、教科書に載るような有名作品が多い。まだ写真そのもののを大量プリントできないので、写真をもとにした絵画が制作され、それが印刷出版メディアに載る時代だった。

 二章では制作者に焦点をあて、関東地方を訪れたり、この地を基盤として活動した写真家や写真技術者たちの作品を展覧するとともに、一都六県それぞれで開業した初期の写真家たちも紹介する。下岡蓮杖、フェリーチェ・ベアト、小川一真、横山松三郎など。あまり知らない名前もあった。当時の写真家が用いたさまざまな小道具、たとえば人物写真の周囲をぼかすための枠(コピーマスク)とか、写真着彩用の絵具、写真の納品袋、それにプリント用紙裏面の写真館のロゴや広告も興味深く、写真そのものよりも見入ってしまった。浅草奥山にあったという江崎写真館の外観写真も珍しかった。

 最終章は、有名無名の人物写真、名所旧跡など、バラエティに富んだ幕末明治の写真群を一堂に集める。子守りや按摩や相撲など、日本らしい風俗を写した写真は、外国人のお土産とするため、スタジオで作為的に撮影されたと思われるものが多い。鎌倉の大仏や神社の境内など、名所旧跡の写真も、実は、人物は意図的に配されたのではないかとちょっと疑っている。

 それに比べると、あまり作為の感じられないパノラマ写真が私は好きだ。東京・横浜など、高い位置から広い範囲を一望した連続写真である。不連続に重なり合う屋根、屋根と屋根の間の空き地など、細部に目を凝らしていると飽きない。いまの大手町方面とか聖橋あたりとか、当たりがつくのも面白い。洛中洛外図屏風を見る楽しさに通じるものがある。こんなものが残っているのかと驚いたのは、明治22年の『足場を組んだニコライ教会堂』の写真、および明治44年の『中央停車場建築』の写真。後者は建物と屋根の鉄骨がほぼ組み上がって、見慣れた東京駅の全体図(骨組みだけ)が浮かび上がろうとしている。

 しかし、一番驚いたのは、明治4年(1871)(※本展リストの記載による)にオーストリアの写真家ライムント・フォン・シュティルフリートが撮影した『天皇陛下と御一行』(明治大学所蔵)である。白っぽい衣の宮中装束の明治天皇が地面(石畳?)にしゃがみ込んでおり、まわりに洋装の人々(和装も数名)が立ったりしゃがんだりして休んでいる。横須賀造船所の開所式に行幸した際、船の中から(?)盗撮したものと推測されるそうだ。この展覧会のリーフレットにも掲載されているが、たぶん私は初めて見た。

 調べてみたら(展示品と同じ品であるか不明だが)2000年に英国の美術品オークションに登場して話題になり、クリスチャン・ポラック氏を通じて日本にもたらされ、2014年に横浜の県立歴史博物館で展示されたそうだ。

参考:朝日新聞デジタル(2018/2/14)神奈川の記憶(100)明治天皇盗撮された<幻の写真>

 まだまだ知らないことはたくさんあるなあ。この新シリーズ、アップデートされた他の地方編も楽しみである。

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