見もの・読みもの日記

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法の正義を求めて/中華ドラマ『沈黙的真相』

2021-01-07 23:07:01 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『沈黙的真相』全12集(愛奇藝、2020)

 レビューサイト「豆瓣」で2020年中国ドラマ2位にランクインした人気作。お試しで見てみたら面白くて、年末年始でイッキに視聴してしまった。

 2010年、江潭市(杭州市がモデル)の地下鉄の駅に大きなキャリーバッグを引きずりながら現れた中年男が「これは爆弾だ!」と騒ぎ出す。男は警察に確保され、バッグの中からは、爆弾ではなく、若い男性の絞殺死体が発見された。中年男は、もと大学教授で現在は弁護士の張超。遺体で見つかった男性は、教え子の江陽と判明した。自分が江陽を殺したと認めていた張超は、裁判で供述を覆し、犯人は他にいると主張する。

 同じ頃、江潭晩報(新聞)の女性記者・張暁倩のもとに写真の断片が届く。匿名の投書には、これから24日以内に送る9枚の断片を組み合わせて1枚の写真にすれば「江陽を殺した真犯人が分かる」とあった。江潭晩報は、写真の断片を受け取るたびに第一面に掲載しなければならない。そうしなければ市内で大爆発が起きて多数の死傷者が出るだろう。投書はそう予告していた。

 この事件を担当することになった江潭市の警官チームは、江陽が平康県の検察官だった当時、大学の同級生だった李静に頼まれて、ある事件にかかわったことを知る。

 発端は2000年。李静の恋人の侯貴平は、平康県の苗高郷中学に支援教員として派遣された。理想に燃える侯貴平は、子どもたちだけでなく、村の縫製工場で働いている若い女性たちにも学習の機会を提供することにした。やがて侯貴平は、女工たちが性被害に遭っていることを知り、証拠を捉えて告発しようとするが、逆に婦女強姦の罪を被せられ、溺死体となって発見される。侯貴平の死は自殺として処理された。

 2003年、平康県の検察官となった江陽は、李静の頼みに動かされ、検死医の陳明章、警官の朱偉とともに侯貴平事件の再調査を開始する。しかしチンピラの所業と思われた事件の背後には、公安局の大隊長や江潭市のトップ企業の経営者など、高い社会的地位と権力の持ち主たちが絡んでいることが判明する。やっと掴んだ手がかりや証言者は次々に抹殺され、気がつけば江陽は、恋人も、家族も、検察官の地位も失い、さらに収賄罪を着せられて、刑務所を出たのは2009年のことだった。獄中で覚えた携帯電話の修理技術で細々と暮らし始めた江陽は、ようやく侯貴平事件の真相に迫る証拠写真を手に入れる。

 しかし江陽の身体は癌に犯され、余命6ヶ月と告げられていた。以下が本格的【ネタバレ】。告発を絶対に成功させるには、この事件に対する社会の関心を強く喚起しなければならない。江陽、陳明章、朱偉、そして江陽の恩師である張超、もと侯貴平の恋人で今は張超の妻となっている李静、さらに平康県で性被害に遭っていた女工の李雪。彼らは張超のシナリオに沿って、奇想天外な計画を実行に移す。江陽は自ら命を断つことによって、社会の不正を訴えたのだ。その告発は成果を収めた。張超、陳明章、朱偉は偽証罪などの罪に問われたが、7年後、刑期を終えた彼らは江陽の墓の前に集う。全ては終わった。

 前半は、2000年、2003年、2010年の3つのドラマが同時に進行していく描き方がスリリングで面白かった。2003年の登場人物がドアを開けると2010年の登場人物が顔を出すとか、かなり込み入った作劇なのに、不思議と混乱しないのである。

 はじめは貧しい農村の小さな性被害事件だと思ったのが、大きな社会不正(政界と財界と公安の権力がつるんでいる)の告発につながっていくのは、中国ドラマらしい展開だと思った。それと、日本なら巨悪に立ち向かうヒーローは一匹狼タイプが好まれると思う。このドラマでは、江陽、陳明章、朱偉という、年齢も性格も異なる3人の男たちが、7年にわたって固い結束(友情?)を保ち続ける。最後は、張超、李静らも加わり、みんなで(警察さえも欺き)社会不正と戦うのだ。ドラマ『摩天大楼』でも思ったが、この熱く濃密な人間関係こそ中国文化なのではないかと思う。

 江陽役の白宇は、明るい未来を信じる青年検察官として颯爽と登場するが、数々の辛酸を舐め、最後は何もかも剥奪された人間の哀しさをにじませ、法の正義を希求して殉教者のように死んでいく。ジェットコースターのような変化をきちんと演じ分けていて見事だった。警察官の厳良(廖凡)、女性隊長の任玥婷(呂暁霖)もキャラの肉付けがしっかりしていてよかった。

 中国語Wikiには、ドラマと原作小説『長夜難明』の違いについて、原作では性被害を受けたのは幼女であるとか、原作では最大の黒幕は周永康(汚職で失脚した政治家)であることが暗示されているとか、気になる記述がある。ドラマもよいが、現代中国の社会派ミステリー、もっと翻訳で読みたい。

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