見もの・読みもの日記

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2021年11月関西旅行:雪村とその時代(大和文華館)

2021-11-24 20:34:52 | 行ったもの(美術館・見仏)

大和文華館 特別企画展『雪村とその時代』(2021年11月19日~ 12月26日)

 京セラ美術館から奈良へ。3週間前に『天之美禄 酒の美術』展を見に来たばかりだが、次の企画が雪村と聞いて、また来てしまった。同館は、これまでも何度か雪村を中心にした企画展を開催しているが、どうしても奈良へ行けずに見逃したものもある。行けなかった悔しさだけを記憶していて、展覧会名を覚えていないのだが、ネットで調べると『大和文華館の水墨画-雪村作品一挙公開!』(2018年5月25日~7月1日)ではないかと思う。このとき、同館が所蔵する7件の雪村作品が全て公開されている。今回は、この7件に加え、京都国立博物館から3件が出陳されており、名品+珍しい作品の取り合わせが、とても興味深かった。

 何度見ても嬉しい名品は『琴高・群仙図』と『呂洞賓図』。琴高仙人は、鯉に乗って水中から現れ人々を驚かせたという仙人だが、この図を見ると、私は諸星大二郎の『諸怪志異』の一編「妖鯉」を思い出して、ぞくぞくするのだ。いずれもマンガみたいに愛嬌のある仙人たちだが、必死に跳ね上がる鯉のギョロ目は不気味である。

 大和文華館所蔵の『書画図』は、見晴らしのよいテラスに集う男性たちを少し離れた場所から見下ろすように描く。かなり劣化が進んでしるが、赤や白の服の色が、華やかだった当初の姿を想像させる。遠景の水上には、たぶん帆船。

 京博所蔵の『宮女図屏風』は初めて見た。いや雪村展、いくつも見ているので、見ていてもおかしくないのだが、雪村にこんな著色の大作があるという認識が全くなかった。六曲一隻の横長の画面、右半分はテラスに数名の宮女がたたずむ。テラスの手すり?によじ登っているのは、いたずらな侍童か。左半分は室内で、多くの宮女たちが体を寄せ合い、くつろいでいる。反物?を広げて吟味しているのか、着ている衣服と相まって、布の山に埋もれているみたい。唐代の風俗を念頭に置いているのだろうが、パーマをかけて膨らませたような髪型(高く結い上げたり、襟足でまとめたり、左右に分けてまとめたり)が個性的で、印象に残る。

 大和文華館所蔵の『花鳥図屏風』は何度か見ているが、風になびく柳、大きな口を開けて鳴き騒ぐ鳥たちなど、躍動感があふれ出た作品。『楼閣山水図』は記憶になかった。画面全体を黒々した山容が覆っており、どこに楼閣が?と探すと、左下隅に小さな建物が見えた。『雪景山水図』は、軒の低い藁ぶき屋根のような人家が点々と連なる、山間の集落の風景を描いている。

 本展は、朝鮮絵画、雪村以前の禅林の絵画、そして同時代の画家たちというカテゴリーを立てて、雪村作品との比較を試みている。このうち、朝鮮絵画に関して、雪村作品と朝鮮絵画に類似性を見ようとする意見が昔からあるが、印象論に留まること、しかし、どちらも文化的な中心地から離れたところで描かれた、どこか土臭さの残る力強い表現という点が共通している、という解説がされていて、納得した。李長孫ほか落款の『雲山図』(朝鮮時代前期)は、やっぱり雪村に似てるなあ、と思って眺めた。

 禅林絵画では、可翁の『竹雀図』は謎めいた不思議な作品。描かれた1羽の雀の視線の先に、もう1羽の雀がいたと考えられるが、なぜか削り取られている。『松雪山房図』は、限りなく素朴画に近い家のかたちが好き。『松梅佳処図』はキラキラ輝くような白梅、くるくる渦巻く波頭など、マニエリスティックな水墨画。同時代の画家では、鑑貞筆『瀟湘八景図画帖』がよかった。縦に屹立する樹木や山の峯が爽快。第6図に小さく犬が描かれているのが珍しい。画家は、多聞院英俊の日記に「カンテイ」として登場するそうだ。

 墨跡や工芸品も、絵画と調和したものが選ばれていた。冒頭に大きな『青磁貼花雲龍文四耳壺』(龍泉窯、元時代)が出ていて、何故?と思ったら、これは小田原城址出土と伝えるもの。雪村は、一時期、北条氏や早雲寺の援助を受け、小田原に滞在していたことがあるのだ。いろいろ考え抜かれた展示で楽しかった。

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