見もの・読みもの日記

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関与から競争へ/米中対立(佐藤亮)

2021-11-14 21:16:55 | 読んだもの(書籍)

〇佐藤亮『米中対立:アメリカの戦略転換と分断される世界』(中公新書) 中央公論新社 2021.7

 悩ましいテーマなので、読み進むのがつらく、途中で放棄しようかと思いながら、なんとか読了した。本書は、緊張高まる米中対立のゆくえを考えるために、1979年の米中国交正常化を起点に、そもそもなぜアメリカが中国との関係を構築し、それを維持してきたかを説き起こす。「中国を育てたのは、ほかでもない、アメリカ」なのだ。

 国交正常化を果たした後、カーター政権、ロナルド・レーガン政権は、最先端の実験設備の売却、高度技術の移転、留学機会の開放など、多方面にわたる中国支援を始動した(この頃の中国の貧困と近代化の遅れ、若い人たちには想像もつかないだろうな)。その背景には、中国が近代化すれば、市場化改革が進み、政治体制も変化し、人権状況も改善するだろうという楽観的な期待があった。同時に、いくら中国が成長しても、近い将来にアメリカに追いつくことはあり得ないと考えられていた。

 その期待は、1989年、天安門事件によって崩れ去る。議会やアメリカ社会の対中認識は悪化したが、ブッシュ政権は対中関係を断念しなかった。中国を徹底的に批判していたクリントンは、大統領就任後、米産業界が中国に期待を寄せる現実に直面して「変節」する。1993年には「包括的関与」政策を発表し、「関与」を正当化する、さまざまな理論が形成され、江沢民、朱鎔基による経済改革や党改革は一定の評価を得た。中国は2001年にWTOに正式加盟し、世界の工場として急速な経済成長を実現していく。

 一方、90年代には、経済優先の対中政策に疑念や懸念を抱く専門家もいた。ブッシュ(子)政権では、国防総省において中国戦略の再検討が行われ、2006年のQDR(四年ごとの国防計画見直し)には、かなり明確に中国への警戒感が書き込まれた。

 2009年に発足したオバマ政権は、対中外交を重視し、中国は「アメリカにとって真のリーダーシップを共有するパートナーの資格」を持っていると主張し、習近平の国家主席就任を歓迎した。しかし、2013年、中国が東シナ海に一方的に防空識別圏(ADIZ)を設定したことで、中国政治への警戒が急速に高まり、対中政策の修正が始まる。

 トランプ政権において、アメリカの対中姿勢は一気に硬化する。トランプは人権問題に大きな関心はなく、大局的な国際秩序観も希薄だったが、政府部局や米軍、連邦議会においては、中国のパワーがアメリカに迫りつつあるという気づきが広く共有された。関与と支援が中心だった中国政策を転換し、中国の影響力を押し戻すための政策対応が本格化した。しかし、米中両国とも景気の下振れにより、貿易協議を再開し、合意せざるを得ない状況となった。

 以上が80年代から近年までの米中関係の変遷である。こうして見ると、全く異なる政治体制の国を「関与と支援」によって、正しい(=自分たちと価値を共有する)姿に育てていけると考えるアメリカも、かなり変わった国だと思う。2000年代の初めには、ソ連の崩壊以降、アメリカは唯一の超大国(比喩的には帝国)になったと言われ、次の競争相手は中国?とか言っても、まだ与太話にしか聞こえなかった。この間、中国が着実に覇権国家の道を歩んできたことには、逆説的に敬意を払いたくなる。

 さて、今後、米中のパワー格差は縮小する一方で、対立は全面的かつ長期的なものになると専門家は予想している。では、デタント(緊張緩和)はあり得るか。最終的に米中対立は終わるのか。我々、中小国の市民にできることは何か。本書は、米ソ冷戦の教訓を踏まえて、これらに一定の回答を与えている。その中で、米中対立が終結するには中国の民主化(すなわち現体制の転覆)が必須とする立場を、著者が明確に否定していることには注意しておきたい。たぶん北朝鮮や、西アジア、中央アジアについて考えるときも重要な視座だと思う。

 個人的には、アメリカの対中政策が米台関係に及ぼした影響が、随時語られているのを興味深く読んだ。アメリカは長らく米中台関係の安定(現状維持)を優先してきた。そのため、台湾で2000年に陳水扁政権が誕生したとき、ブッシュは独立志向の民進党政権を喜ばなかった。2012年の総統選挙においても、オバマは国民党政権による台湾海峡の安定に期待していたが、2016年になると、実務的リーダーとしての蔡英文を評価し、歓迎した。いま、米中対立が本格化していくなかで、米台関係はかつてないほど強化されているという。これが台湾政府にとって単純に喜ばしい事態なのかどうか。おそらく大国間で難しい舵取りを迫られるところだろう。

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