見もの・読みもの日記

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久しぶりの大阪/文楽・芦屋道満大内鑑、ひらがな盛衰記

2021-11-03 17:21:49 | 行ったもの2(講演・公演)

国立文楽劇場 令和3年錦秋文楽公演(2021年11月1日、11:00~、14:00~)

 月曜に有休を取り、土日月の2泊3日で関西方面で遊んできた。最終日の月曜は文楽公演へ。今年は恒例の新春公演に行けなかったので、大阪で文楽を見るのは1年ぶりである。平日の公演を見るのは、いつ以来か分からないが、常連らしいお客さんのくつろいだ雰囲気が物珍しかった。

・第1部『芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)・保名物狂の段/葛の葉子別れの段/蘭菊の乱れ』

 たぶん30年以上前、文楽に興味を持ち始めた頃に、吉田文雀さんの葛の葉で見た演目である。吉田和生さんでも一度見ていて、彼の芸風に合った役だなと思った記憶がある。さっき調べたら、2011年2月、文雀さんが休演して、急遽、和生さんが代役をつとめた公演を見たようだ。今回の公演のプログラムに、和生さんのインタビューが掲載されており、師匠(文雀さん)が好きで長く遣い続けていた役であること、今回の公演では、師匠が六十年ほど前に大江巳之助さんに作ってもらった白狐の縫いぐるみを遣うこと、師匠から葛の葉を遣う上で教えられたこと(動物と植物は違う)など、興味深い話がたくさん詰まっていた。

 「どんな役でもそうですが、何度も演じていますと、だんだん手数が減っていきます。いろんなことをやらなくても、人形を持って出るだけでお客さまに伝わるようになりますね」という談話も興味深い。実際、和生さんの葛の葉が、布団に眠る我が子をじっと見つめているだけで、胸に迫るものがある。桐竹勘十郎さんの、神通力で跳び回るキツネ(本朝二十四孝や玉藻前曦袂)とは、また違った魅力があるのだ。この狂言、出自とか種族を超えても家族は成り立つと教えてくれるので、ある意味、とても現代的なテーマにも思える。

 「蘭菊の乱れ」は初見のような気がしていたが、2011年にも見ていた。葛の葉はキツネの口のようなマスクを着け、赤い房が耳のように見える黒塗り笠をかぶって登場する。万寿菊(光琳菊みたい)の裾模様の入った柿色の着物。ちょっと珍しい衣装ではないだろうか。

・第2部『ひらかな盛衰記(ひらがなせいすいき)・大津宿屋の段/笹引の段/松右衛門内の段/逆櫓の段』

 たぶん何度か見ている演目だと思う。摂津国福島の船頭・権四郎は、未亡人の娘およしと孫の槌松を連れて西国巡礼の途中、大津の宿屋で訳ありの一行(木曾義仲の御台所・山吹御前と駒若君ほか)と隣り部屋になる。その晩、鎌倉方の襲撃を受け、権四郎らは子どもを取り違えて、駒若君を連れて逃げ出し、山吹御前が連れ出した槌松は、鎌倉方の武士に討たれてしまう。

 その後、権四郎の娘およしは、新しい夫・松右衛門を迎え、取り違えた槌松(実は駒若君)と睦まじく暮らしていた。そこに山吹御前の腰元お筆が訪ねてきて、一夜の顛末を語り、若君を返してほしいと懇願する。このお筆、「笹引の段」での活躍が目覚ましいが、胆力も行動力もある「できる腰元」である。孫の死に激怒する権四郎だが、松右衛門(実は木曾義仲の家来・樋口兼光)に情理を説かれ、状況を受け入れる。しかし、松右衛門すなわち樋口の正体は、すでに鎌倉方の間者である船頭たちに知られていた。権四郎は、畠山重忠に訴え、元の婿・亡き松右衛門の実子である槌松だけは助けてもらう確約を得ていた。それを知り、従容と縄を受ける樋口。ああ~こういう、口で言うことと内心が裏腹、という芝居は大好物である。偶然から生じた「取替え子」ということで、物語の定型を外しつつ、巧くまとめた筋書きだと思う。

 第1部は「保名物狂の段」で織太夫と小住太夫の掛け合いを聴くことができ、「葛の葉子別れ」は中が咲寿さん、奥が錣太夫さんで堪能。ちなみに近くの席のおばちゃんたちが「しゅっとした…」「ガイジンさんみたいな…」とイケメンの咲寿さんに食いついていた。第2部は「笹引」が咲太夫さん。大勢がわちゃわちゃ掛け合いで喋る場面なのに、とても聴きやすかった。冒頭から声量も十分。お元気で何より。「松右衛門内」の芳穂太夫→呂太夫も安定感あり。「逆櫓」は三味線が華やかで、技巧的な聴かせどころも多く、清志郎さんもノッていた。

 なお、危惧はしていたのだが、お弁当屋さんが開いていないため、館内で昼食を調達できず(できればコンビニ飯でなく劇場のお弁当が食べたかった)。第1部と第2部の合間に外へ出て、急いでサンドイッチを買ってきたが、ロビーが飲食禁止で食べることもできなかった(1階に無料休憩所はある)。つらい。早く通常営業に戻りますように。

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