〇永青文庫 冬季展『古代中国・オリエントの美術 リターンズ-国宝“細川ミラー“期間限定公開-』(2021年12月18日~2022年2月13日)
2020年の早春展で、新型コロナの影響で途中終了となった『古代中国・オリエントの美術』展の再開催だという。2020年の展覧会は、2か月の会期が半月短縮されてしまったが、まあまあ開催期間を保てたし、絶対行くつもりでチェックしていた展覧会ではなかったので、私の「行かれなかった展覧会」には記録していなかった。公式ホームページに残っている出品リストを見ると、主要な展示品は今回とほぼ同じ。ただし2020年には、今回出品されてない支那趣味の絵画や高麗茶碗が出ていたようである。
私は、2020年の展覧会は見逃したが、永青文庫には何度も来ているので、4階展示室の中国関係は見覚えのあるものが多かった。細川護立のコレクションには、唐三彩や石仏にも優品が多数あるはずだが、今回は、古代(殷周~漢)の金属製品がほとんどで、同じ時代の灰陶や玉器も少し出ていた。古代の金属製品には、当然、剣や矛など武器が多いのだが、どれも美しい。『動物文鞘付銅剣』は優美な透かし文様の鞘に剣を収める。実践に使えるとは思えないので、たぶん副葬品や威儀を正すために使われたのだろう。
「細川ミラー」と呼ばれる『金銀錯狩猟文鏡』(戦国時代)は展示替えで見ることができなかったが、『金彩鳥獣雲文銅盤』(漢~新時代)が出ていた。この2件、日本の国宝に指定されているのだな。後者は、『金銀象嵌鳥獣文菅金具』(前漢時代、重美)とともに、細川護立がパリで買い求めたものだ。この時代、中国美術の優品は欧州で探すものだったというのが感慨深い。
『銀人立像』は、2013年の『古代中国の名宝』展で見たもの。このとき『銅製馬車』も見ているのだな。馬車には御者のほかに二人の人物が乗っている。大きさがずいぶん違うのは、主人と従者か、大人と子供か。馬車の作りが精巧で、車輪が実際に回りそうに見えた。『三人将棋盤』は、2018年の『細川家と中国陶磁』展で見た。これ、中国の古装ドラマ(ファンタジーも可)で、遊んでいるところを映像化してくれないかなあ。
今回印象に残ったのは『銅製柄香炉』(前漢時代)で、丸く盛り上がったかたちの透かし彫りの香炉。前方に短い突起、後方に尻尾のような短くて先が平たい柄が付いている。短い脚は三本。全体としてぶんぶく茶釜のタヌキみたいな形態である。詳しい用途は不明だそうだ。
3階はオリエント(西アジア)の美術。エジプトのファイアンス(陶磁器の一種)製の容器片は、素朴な文様が絵唐津を思わせる。古代ガラスは、まだ工芸として成熟していない野性味が好きなのだが、『ゴールドバンドガラス碗』(東地中海沿岸域、前2~前1世紀)には驚いた。皿に近い浅い碗で、内側は透明に紫色ガラスの網目模様、外側は紫色に金箔の太いストライプ柄になっている。とてもモダンなセンス。
イランの人物文陶器はミナイ手と呼ばれる。ミナイは、ペルシア語でエナメル、色絵を意味し、白地に色鮮やかな絵の付いた中国陶磁器にあこがれて、イスラム世界が発明した色絵陶器であるといわれているそうだ。私は、やや時代の新しい(17世紀)少ない色数を効果的に使った民画ふうのタイルが気に入った。日本民藝館のコレクションにあっても違和感がなさそうだと思った。
珍品として、小さなヘルマアフロディーテ(両性具有)像あり。衣をはだけて片方の乳房を出し、裾をたくしあげて、子供のような男性の性器を見せる。イタリア(2~3世紀)と注記がついていたが、ローマ帝国時代の遺物である。