〇東京都渋谷公園通りギャラリー 『Museum of Mom's Art ニッポン国おかんアート村』(2022年1月22日~4月10日)
展覧会概要によれば、作家・編集者・写真家である都築響一ほかのゲストキュレーターにより、2000年代初頭から「おかんアート」と呼ばれて密かに注目されてきた、「母」たちのつくる手芸作品の数々、1,000点以上を紹介する展覧会だという。私は、都築響一さんのお名前も、「おかんアート」という言葉も初耳だった。「おかんアート」という名称に、ジェンダーの視点から批判(というほどではないが不満やざわつき)が表明されていることは知った上で見に行ったが、民族学や歴史民俗学の展示(それも現代・近過去の)が大好きな人間としては、とても楽しませてもらった。
会場内のパネルに、おかんアートと民芸を比較して、民芸は風土が生み出すものだが、おかんアートには地域性がない、北海道から鹿児島まで、さらに世界でも「みんなが同じものをつくってる」という記述があった。だから「作り手のセンスがすべて」であると同時に、「全国・全世界、どこでも『おかん』は『おかん』である」という結論に結びつくのだが、どうなんだろう?
実は会場を見ていて、あ~これ知ってる!と思うものと、全く初めて見るタイプの展示物があることに気づいた。私(1960年代生まれ、東京育ち)がなつかしく思ったのは、まず折り紙やチラシを使った紙細工で、うちの母親はやらなかったが、親戚や友達の家に行くと、たいてい無造作に飾られていた。
手編みのドレスを着たキューピーにも既視感があったが、我が家にはなかった気がする。
半透明のリボンを使ったエンゼルフィッシュは我が家にあった。友達の家で見て、母親にねだって作ってもらった。
二枚貝に布を張った根付(ストラップ)は、自分でつくるものという認識はなかったが、観光地の土産物屋で売られているのは見たことがある。こんなキラキラしたものではなく和柄の布が多くて、私より年配の女性がよく身に着けていたように思う。
この編みぐるみは初めて見た。用途はトイレットペーパーカバーで、ロールちゃんという名前があることも初めて知った。
このメガネ置きも初めて見て、ちょっと欲しくなったもの。特に名前はないようである。
全国各地で同じ「アート」がつくられた背景には、もちろん情報の広汎な共有がある。今ならインターネットだが、1970~80年代には、本(ムック)や雑誌がその役割を果たしていた。会場に展示された手芸本の中に、自分の記憶とつながるものを見つけたときは驚いた。私は中学生の頃、この本を見ながら、表紙のような人形をつくったことがある。しかし1回限りで、それ以上はハマらなかった。
当時は、必要な材料がパッケージになった手芸セットも市販されていた。会場にはむかしの(?)手芸セットも展示されていて懐かしかったが、今でもあるのだろうか? そういえば、洋服を手作りするためのパターンセット(ジャノメ・フィットパターン)も売られていたことを思い出した。手芸は、豊かな生活を実現するための、ある程度実用的な技術だったのだ。
個人的には、この「おかんアート」について、もう少し丁寧な検証を加えた展示が見てみたい。地域性は本当にないのか。それから、短いスパンでの流行というか、時代性は大いにあると思う。