見もの・読みもの日記

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美人さん勢ぞろい/上村松園・松篁(山種美術館)

2022-02-22 21:34:14 | 行ったもの(美術館・見仏)

山種美術館 開館55周年記念特別展『上村松園・松篁-美人画と花鳥画の世界-』(2022年2月5日~4月17日)

 美人画の名手として知られる女性画家・上村松園(1875-1949)と、その長男で花鳥画を得意とした上村松篁(1902-2001)に焦点を当てた特別展。さらに松篁の長男である上村淳之の作品、同時代の画家による美人画と花鳥画など、63件が展示されている。

 私は、ふつうの美人画はあまり好みでないので、名手といわれる上村松園にも関心がなかったが、よい機会なので見てきた。松園の美人画は18件。大正時代の『蛍』から最晩年の『杜鵑を聴く』まで、全て日本髪に着物姿の女性を描いたものだが、よく見ると、年齢や装いは多様である。あだな女盛りだったり、初々しい少女だったり。

 色っぽさでは、団扇を口元に当て、蚊帳の間から半身を覗かせる女性を描いた『新蛍』が随一だろう。青地の着物が涼しげで、ストンとまっすぐに垂れた蚊帳の直線が、女性の曲線を引き立てており、ちょっと小村雪岱を思わせる。若い女性を描いた作品では、時代劇に出てくるような黒の掛け衿姿で針仕事にいそしむ『娘』が好き。『庭の雪』の横顔にも初々しさが残る。髪型は若い舞妓さんが結う「お染髷」で、髷と帯に鹿の子絞りがあしらわれている。衿の後ろから帯にかけての覆い布は、衿袈裟(えりけさ)といって着物に髪の油がつくのを防ぐためのもので、京阪独特の風俗だったそうだ。上品なフリルがついているのが可愛い。

 同館は薄型の展示ケースが多いので、作品に肉薄して細部まで眺めることができる。帯や着物の描き分けも素晴らしいが、やはり女性の肉体の美しさの追求にときめく。髪の生え際のぼやかし、指先や耳の赤み、小さくはっきり点じられた瞳など。『蛍』は夜着姿の女性の、紅とは違う、自然な唇の赤みが印象的だった。また、松園は表具にこだわりのある画家のひとりだったということで、作品の表装にも注意を払いたい。松園と親交のあった岡墨光堂には、松園が用いた裂地が残っているそうだ。

 松園とは同世代の、伊藤小坡、鏑木清方の美人画も展示されていた。鏑木清方、梶田半古については、いま話題の(!)木版口絵作品も出ている。さらに小倉遊亀、伊東深水らの美人画が続く。伊東深水は伝統的な美人画も描くが、バタ臭い洋風顔の美人画がよい。眼差しの強さにドキドキする。胸元の大きく開いた洋装の女性が微笑む『婦人像』、モデルは女優の木暮実千代さんなのだそうだ。そして深水の『吉野太夫』を見ると、扮装は古典的でも、しっかりした顎のあたり、近代女性を念頭に描いているように思われる。

 小倉遊亀の『舞う(舞妓・芸者)』2幅対は、人工的なゲームキャラみたいにカッコよくて、とても可愛い。料亭・大市の女将をモデルにした『涼』は、老女のたおやかさと凛とした気品にあふれている。こういう顔の老女になりたかったが、もう無理かなあ。橋本明治が舞妓について、伝統によって鍛えられ練り上げられた「没個性の美」だと語っているのが興味深かった。

 それから、上村松篁の花鳥画へ。このひとは、あまり巧く描こうとしていないところがよい。『閑鷺』とか、鳥を描いた作品が好きだ。同じ系統では、福田平八郎のドタリと投げ出されたような『鯉』とか、加倉井和夫の野鳥と植物を描いた『秋粛』も好みである。

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