〇松岡美術館 再開記念展『松岡コレクションの真髄』(2022年1月26日~4月17日)
同館は、貿易・不動産業などで知られる実業家の松岡清次郎(1894-1989)が、長年にわたって蒐集した美術品を展示するため、1975年に設立した美術館である。2020年に港区白金台(松岡の私邸跡地)に移転し、公開を続けていたが、2019年6月から、館蔵品の修復調査と諸設備改修工事のため休館していた。ちょうどコロナ禍と重なるかたちになったが、このたび、無事にリニューアルオープンした。
私のブログの記録では、2004~05年に陶磁器コレクションを目当てに何度か訪ねているのだが、その後は、気になりながら、ご無沙汰していた。久しぶりの訪問なので、建物の外観には全く記憶がない。中に入ると、右手に巨大な松岡清次郎氏の半身像(作者は伊東傀)があって驚いたが、これも記憶になかった。ただ西洋彫刻の並ぶエントランスホールには覚えがあり、ガラスケースに入ったジャコメッティのブロンズ像『猫の給仕頭』を見つけて、これ、これ!と懐かしく思った。
1階はヘンリー・ムアやエミリオ・グレコの現代彫刻、古代ギリシア・ローマ彫刻、エジプトの神像や彩色木棺に加え、古代東洋彫刻(中国・ガンダーラ・インド・クメール)のバラエティが圧巻だった。中国彫刻は、隋代の観音菩薩立像(石灰岩)と唐代の如来頭部(大理石)が、かすかに彩色の名残を感じさせて美しかった。遼~金代の如来坐像は、小顔で、胸から腹の肉付きがよく、ちょっと室生寺の釈迦如来坐像に似ていた。ガンダーラ様式の仏像は10件以上。髪を垂らしていたり結っていたり、上半身が裸だったり通肩の着衣だったり、ガンダーラ彫刻と言ってもいろいろであることが分かる。
インド彫刻は、肉体に漲る生命力に惚れ惚れする。丸々した乳房の女神像が多いが、性的かというと、ちょっと違う気もする。太陽神スーリヤ像は七頭立ての馬車(七頭一身にも見える)に乗っていた。四臂の女神ヨーギニーは鳥に跨り、口元に手を当てて牙を強調する。善神とも邪神とも判断のつかない混沌とした姿がおもしろい。
2階は陶磁器と日本画。陶磁器は、個人的に、松岡コレクション最大の見ものだと思っている。『青花龍唐草文天球瓶』については、完全無欠な球状、ブルーの発色、描線の躍動感、何も言葉を重ねることができない。この名品を日本に持ってきてくれて、ほんとにありがたかったと思う。1974年のオークションで、いったんはポルトガルの銀行王の代理人に敗れたものの、軍事クーデター(調べた→カーネーション革命というのか)で銀行王が失墜し、松岡の所有に帰したのだという。
松岡の好みなのか、色彩が明るく華やかで美しい優品が多いように感じた。昭和の子どもの食器のようなおおらかさを感じる『五彩魚藻文壺』(明・嘉靖)とか。これ、同類の品が国内にいくつかあるのだな。『五彩果鳥文鉢』(清・康煕)は妙に写実的なタッチの鳥が、鉢(碗)の側面に大きく描かれている。『釉裏紅花卉文大壺』(明・洪武)は、渋い黒色の描線の下から、滲むような赤が発色しているところに趣きがある。どれも眼福。青花も『青花葡萄文大盤』など、ありそうで、少し変わった文様が多くて楽しかった。
日本画は、鏑木清方と伊藤小坡の美人画を堪能した。伝・周文筆『竹林閑居図』は後期(3/8-)展示なので、機会があったらまた来よう。
なお、1階では大きなガラス窓から、緑の多い、よく手入れされた庭園(中庭)を眺めることができる。つくりものの二羽の鶴が置かれているのはご愛敬。ホームページのフロアガイドに「現在、美術館が建つ場所には、松岡清次郎の住まいだった大正時代の2階建て和風建築がありました」という説明があるが、これは、佐野眞一『渋沢家三代』によれば、渋沢篤二が暮らした家なのだろうか。少なくとも場所はここらしいのだが。