〇出光美術館 『国宝手鑑「見努世友」と古筆の美』(2022年4月23日~6月5日)
新型コロナの影響で、ずっと閉まっていた出光美術館がついに再開した。いやー長かった。私が最後に参観したのは、2020年2月の『狩野派:画壇を制した眼と手』(会期短縮で終了)である。その後、2020年度に計画されていた展覧会は全て中止。2021年4月には『松平不昧 生誕270年 茶の湯の美』が完全予約制でスタートしたが、急激な感染拡大のため、2週間足らずで閉幕してしまった。
今度は悔しい思いをしないように、再開初日に予約を入れた。予約可能な時間帯が11時からだったので、10時の枠は満員なのかと思ったら、そうではなく、開館時間が「午前11時~午後4時」になっていた。当日、行ってみると、チケット売り場の前に、検温、QRコードの確認コーナーができていて、複数の女性スタッフが控えていた。こうした人件費やシステム構築への投資の影響で開館時間を短縮したのかな、と想像したけれど、開けてくれれば御の字である。
本展は、修復後初公開の古筆手鑑『見努世友(みぬよのとも)』をはじめ、書の優品を厳選して、魅力あふれる古筆の世界を紹介する。個人的に、出光美術館といえば、やっぱり古筆だね!と思っているので、再始動の展覧会にふさわしいテーマだと思った。入口を入って右手の一角には、古経の名品(魚養経、絵因果経など)が展示されているのだが、左手に古筆の極めつけの名品が掛け並べてあって、先にそちらに足が向いてしまった。
まず『継色紙』が2件。「むめのかの」は、各行の軸がゆらゆらしながら、行頭がゆっくり左下がりになっていく感じが好き。もう1件(あめにより)は右半分が青一色の無地の料紙で、左半分だけに文字が書かれているのが視覚的にオシャレ。『高野切第一種』は、先日、五島美術館で見た記憶と照らし合わせる。五島の所蔵品のほうがリズムが感じられて好きかなー。
『石山切』は伊勢集が2件と貫之集1件が出ていた。伊勢集の筆跡は一字ごとの姿が明快であるのに対し、貫之集は「旋回する筆致、大胆な線条」が魅力であるとのこと。私はあまり連綿体は好きでないのだが、この貫之集は好き。『中務集』もよい。「線の肥痩の少ない、均一的で凛とした張りのある線条」「あたかも山肌を伝う水流のような表情」という解説にうなずきながら、微笑んでしまった。
古筆手鑑『見努世友』は、2018年9月から2021年3月にかけて本格修理を実施し、本紙(古筆類)を全て台紙から取り外し、旧裏打紙を撤去し、補修・補彩を施して、新たな台紙に貼り直された。担当したのは(株)修美さん。しかも、もとは両面貼一帖だったものが片面貼二帖に改装されている。巡路では、先に展示されてたものが「戸隠切」から始まる帖で、あれ?これはもとの裏面かな?と思ったら、奥の展示ケースに「大聖武」から始まる、もとの表面の帖が開いていた。
古筆手鑑の本体には、本紙ごとに(伝承)筆者名を示す紙片(極印なし)が付いているが、展示では、現在の研究で判明している「〇〇切(名称) 作品名」が添えられており(例:「筋切 古今和歌集」「堺切 和漢朗詠集」など)、いくつか名称不明(類例なし?)の作品もあった。逆に伝承筆者名をチェックするのも面白かった。ネットで調べたら、「虫喰切」の「吉備公」は真備ではなく吉備由利なのかな?
後半は鎌倉・南北朝以降の書。進子内親王(伏見天皇皇女)の和歌を7~8首ずつ記した「あがた切」が2件出ていた。私はこの書跡のよさはよく分からなかったが、添えられた翻刻を読んで、このひとの和歌がすっかり気に入ってしまった。メモを取ってきた1首は「ながめいたす そとものもりに ゐるはとの こゑものすごき あめのゆふぐれ」。全体に漂うメランコリーにぞくっとする。こういうのが京極派の歌風なのかな。
最後は趣きを変えて、さまざまな茶道具が30件ほど。玉澗の『山市晴嵐図』が出ており、あわせて『御茶器帳(雲州蔵帳)』が出ていた。『雲州蔵帳』は松平不昧公が収集した茶道具の目録帳で、この「貴重品目録」に『山市晴嵐図』が載っているのである。よく見たら、『堆朱四睡文香合』と『呉州染付草花文茶碗(橘)』も載っていた。もしかしたら、昨年見逃した『松平不昧 生誕270年 茶の湯の美』の一部再現かな?と思って、嬉しかった。
なお、ロビーに隣接する茶室「朝夕庵」は以前からあったと思うのだが、今回、床の間に仙厓の『鍾馗画賛』を掛け、茶道具を並べて、茶室のしつらえを楽しめるようになっていた(前からやっていただろうか?記憶にない)。展示品の目録はウェブサイトで入手できる。陶片室はまだ閉室中。早く安心して利用できるようになるといいな。