〇五島美術館 館蔵・春の優品展『吉祥の美』(2022年4月2日~5月8日)
五島美術館の創立者・五島慶太(1882-1959)の生誕140年を祝い、慶太翁蒐集の古筆・歌仙絵を中心に「吉祥」にかかわる優品を選び、約50点を紹介する(展示替え有)。同館の古筆・歌仙絵は何度も見ているけれど、心が洗われるようで、やっぱりよかった。
冒頭には『高野切古今和歌集』の第一種と第二種が並んでいて、おお贅沢!と感激。第一種は、行間が広くおおらかで、墨の濃淡のリズムが美しい。五島美術館が持っているのは巻一春上の冒頭(年のうちに春は来にけり)で、歌の素朴な詠みぶりとよく合っているように思う。第一種の筆者は、ほかに巻九羇旅、巻二十大歌所歌を担当。巻二十は完本で伝わっていると読んですごい!と思ったら、 2017年に京博の『国宝』展で見ていた(所蔵は高知県立高知城歴史博物館)。
第二種は、連綿が目立つと思っていたが「筆をやや傾き加減にした側筆の技法が特徴」だという。なるほど、側筆だと線に太い・細いの変化が出るのか。直筆(ちょくひつ)は全体に細くてスッキリした線になる。第一種は、墨の濃淡の変化はあるけど、線は直筆なのだな。この違いを初めて理解。『栂尾切(桂本万葉集)』『関戸本和漢朗詠集切』は、高野切第二種と同じ筆者(源兼行説が有力)と推定されているというので、展示室を行きつ戻りつして見比べてみた。
『下絵古今集切』(伝・藤原定頼筆)は大ぶりでゆったりした文字が好み。類例が少なく、これまで本品を含む8葉しか発見されていないという。大手鑑『筆陣毫戦』(福岡藩・黒田家伝来)は展示室のいちばん奥のケースに出ていた。
ん?継色紙や寸松庵色紙が壁に掛かっていない、と思ったら、これらは中央の上から覗き込むかたちのケースに出ていた。これはこれで、至近距離で見られるので老眼には嬉しい。『継色紙(めづらしき)』は真ん中に寄せた文字と余白のバランスが好きな作品。あと『蓬莱切』も私の好み。解説には「平安古筆のなかでは比較的大きく明快な筆致」とある。歌仙絵は『上畳本・紀貫之像』『壬生忠峯像』『源俊頼像』が出ており、それぞれ歌人の顔立ちや姿勢の描き方が個性的だった。
歌仙絵以外の絵画では、伝・馬麟筆『梅花小禽図』(南宋時代、4/17まで)を久しぶりに見た。2019年夏の優品展では展示替えで見逃しており、2020年秋の名品展では、この作品の包み裂(更紗)だけ見ている。しかし、いまコレクション解説を読んだら「梅の枝に止まる2羽の小鳥を描く」とあるのだが、私は薄い色で描かれた1羽が全然目に入っていなかったように思う。残念。日本絵画は、中世の墨画、琳派、そして近代絵画まで。安田靫彦筆『菊慈童』と川端龍子筆『富貴盤』(摘み取られた牡丹の花)がよかった。
それから、彩色版画絵手本『芥子園画伝』(清時代、17-18世紀)が美しかった。2冊出ていて、柘榴の図と菊の図が開けてあったが、色数や彩色の面積を極力抑えて上品な仕上がりにしている。手彩色かと疑ったが、繊細な多色刷りらしかった。これに比べると、錦絵は俗だなあ、と苦笑した。さらに、茶碗、陶磁器、香合、古鏡など。「宇野雪村コレクション」の文房具では、あまりにも精巧に形づくられた墨(明時代)に驚き呆れた。消耗品なのに! 『乾隆描龍蝋箋』は、乾隆帝がつくらせた華やかな便箋(料紙)で、オレンジ色に金色で、ちょっと可愛い龍が描かれていた。
展示室2は『源氏物語絵巻』復元模写(4/29-国宝原本)と源氏物語の関連書。『源氏物語小鏡』(慶長頃刊)は、古活字(連綿活字)を用いたもの。古活字版の登場によって、初めて日本の古典が出版対象となった。内容は源氏物語のあらすじを紹介したもので、連歌師などに需要があったのだろうという解説に納得した。