見もの・読みもの日記

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描かれた源平の世界とともに/水のかたち(山種美術館)

2022-07-24 23:33:05 | 行ったもの(美術館・見仏)

山種美術館 特別展『水のかたち-『源平合戦図』から千住博の「滝」まで-』+特集展示『日本画に描かれた源平の世界』(2022年7月9日~9月25日)

 海辺を舞台とし江戸時代に描かれた『源平合戦図』から、千住博(1958- )の「滝」シリーズまで、水を印象的に描きだした優品の数々を展示する。

 個人的には「源平の世界」に期待して訪ねたのだが、最初に目に飛び込んできたのは、奥村土牛の『鳴門』。もちろんこれも大好きな作品。雨に溶けて流れ出しそうな風情の海棠を描いた小茂田青樹の『春雨』や、木立のシルエットがぼやける川合玉堂の『水声雨声』も好き。紺青の海をバックにトビウオが群れ飛ぶ川端龍子の『黒潮』は清々しい。石田武の『鳴門海峡』は、土牛の『鳴門』の4倍?いや8倍くらいある横長の大画面に、滔々と渦巻く巨大な渦潮を描く。土牛の海が明るい若草色をしているのに対して、こちらの海は、北国のような深い青色である。渦の白く泡立つ様子があまりにもリアルで、よくよく近づいて目を凝らして、ああ、やっぱり「絵」なんだ、と確認してしまった。この作品は、16年ぶりの展示だそうだ。

 展示室の最後に、江戸時代(17世紀)の作品である『源平合戦図』六曲一双が出ていた。華やかな金雲の間に、源平合戦の名場面が描かれる。右隻には一の谷の戦い、鵯越え、敦盛と直実などを描き、左隻には屋島・壇ノ浦が描かれている(見どころは、同館特任研究員・三戸信恵さんのYoutube解説動画に詳しい)。小堀鞆音の『那須宗隆射扇図』は、まあ巧い作品ではあるけれど、そんなに感心したことはなかった。ところが、上記のYoutube動画で拡大図を見ると、甲冑装束の細部の描写が呆れるほど凄い。好きだったんだなあ、としみじみする。

 前田青邨の『大物浦』は大好きな作品。義経一行を乗せた船が浮かぶ嵐の海は、わずかな白波も立てず、粘りつくように大きくうねっている。氷の山のようでもあり、砂漠のようでもある。ほの暗い空間のどこかに潜む平知盛の亡霊の存在を感じて、緊張しながら眺める。小品『須磨』もよかった。敦盛を扇で差し招く熊谷直実の素朴な風貌を描いたもの。あとは森村宣稲の『宇治川競先』が出ていたが、源平関係は、え?これだけ?という感じだった。その不満は、第二展示室を覗いて解消された。

 まず、守屋多々志の大作『平家厳島納経』が素晴らしい。海の中に立つ厳島神社の鳥居をくぐっていく船団。中央の船には、錦をかぶせた箱(平家納経が入っているのだろう)を囲んで公達と壺装束の女性たちが座る。舳先には甲冑姿の武者が立ち、艫(とも)では短い衣の水夫が舵を取る。警固の武者だけを乗せた船や、女性だけを乗せた船が並走する。明るい水色の海、朱塗というよりピンク色の鳥居が華やか。前田青邨『三浦大介』は、兜を懐に抱く、眼光鋭い白い髭の老武者像。頼朝の挙兵に呼応して戦死した三浦義明である。前田青邨81歳の作だというのも感慨深い。安田靫彦『平泉の義経』は、僧形の秀衡と義経を描く。智謀と人生経験に裏打ちされた威厳ある秀衡と、まだ海のものとも山のものともしれない、初々しい若武者・義経の対比が劇的である。この三人の歴史画は、甲乙つけがたく、どれもいいなあ。

 今村紫紅の『大原の奥』は、尼姿の建礼門院と大納言佐の局を描く。悲しい場面なのだが、紫紅のタッチには、どこか南国ふうの開放的な空気感があって好き。冷泉為恭の『小督仲国図』と、幻想的な小林古径の『伊都岐島』も見ることができて、深く満足した。久しぶりにカフェで和菓子と抹茶をいただいて帰った。

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