見もの・読みもの日記

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近代の光と影/世界史の考え方(小川幸司、成田龍一)

2022-07-21 21:59:47 | 読んだもの(書籍)

〇小川幸司、成田龍一編『世界史の考え方』(シリーズ歴史総合を学ぶ 1)(岩波新書) 岩波書店 2022.3

 2022年4月から高等学校の新しい科目「歴史総合」が始まることを機会として、あらためて歴史学と歴史教育の架橋をはかり、「歴史叙述」がどのような「問い」と「作法」によって提供されるかを、歴史家との対話によって紹介する。読み応えがありすぎて苦労したが、ようやく読了した。

 本書は時系列にあわせたテーマを扱う5つの章を設け、3冊の課題テキストを編者二人が紹介したあと、テーマに関連する歴史学者をゲストに迎えて対話を行う。5章×3冊の課題テキストは、岩波ジュニア新書や山川の世界史リブレットなど、比較的読みやすいものもあれば、江口朴郎や丸山真男など、かなり「古典」的なものもあった。各章の最後には20冊くらいのブックリストも付いている。歴史を学ぶには、先人の著作を精力的に読み抜くことが不可欠であることを感じる(体力勝負)。

 ゲストの歴史学者は、地域バランスをよく考えて選ばれている。第1章「近世から近代への移行」のゲストが、中国を専門とする岸本美緒さんなのが意外だったが、中国史(東アジア)から見ることで、今の我々が「近代」の典型と考えている「ヨーロッパモデル」の輪郭が明らかになる。中国は、前近代から流動性が高くリスクの大きい自由競争社会だが、それは権利として保障された自由ではなく、放任された自由である。したがって、国家が介入したいときは無制限に介入できる、という分析、とてもおもしろかった。

 第2章「近代の構造・近代の展開」は、イギリス史の長谷川貴彦さんをゲストに、フランス革命、産業革命、そして1848年革命を考える。ヨーロッパは、フランス革命(市民革命)にも産業革命にも成功したように見えるが、そこには同時に「人類が背負う大きな課題」が発生しており、歴史は「成功したか失敗したか」で単純に色分けできるものでないことが示される。1948年革命(ウィーン体制の崩壊)は全然忘れていた。

 第3章「帝国主義の展開」は、アメリカ史の貴堂嘉之さんをがゲスト。デモクラシー発展の歴史として描かれてきたアメリカ史を、誰を国民として統合し、誰を排除するかの選別の歴史として問い直す。このとき、国民の境界となったのが「人種」である。「近代化」というものを、資本主義と国民国家のサクセス・ストーリーに単純化することなく、その構造や影響を多面的に見つめる必要がある。 

 第4章「20世紀と二つの大戦」のゲストはアフリカ史の永原陽子さんで、これもやや意外な人選に感じられられたが、課題図書の荒井信一『空爆の歴史』をめぐって、空からの無差別殺戮の背後には、「帝国」にとって掌握しがたい「野蛮」な人々に対する人種主義があるという指摘を読んで、深く納得した。「20世紀の戦争」の起源は、1900年前後に遡る「帝国主義時代」の植民地戦争にあるという。

 第5章「現代世界と私たち」のゲストは、中東史の臼杵陽さん。確かにイスラエル・パレスチナ問題に目をつぶっては、現代の「グローバル社会」の理解も、未来を語ることもできないだろう。けれども、自分が高校生のとき(もう40年以上前)中東問題をきちんと習った記憶がないし、結局、基本的な知識不足のままになっている。今後は、私のような大人が減りますように。

 私が習った世界史の先生は、かなり教科書を踏み越えて、いろいろなことを教えてくれたので、今でも感謝している。しかし「市民革命」「国民国家の誕生」を、歴史の喜ばしい到達点と捉えているフシがあった。時代の制約か、あるいは高校生相手だから、事象を単純化していたのかもしれないが。本書を読むと「近代」の光と影が双方向から迫ってくる。これを学ぶ高校生も、教える教師も大変だと思うが、頑張ってほしい。

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