〇太田記念美術館 『源平合戦から鎌倉へ-清盛・義経・頼朝』(2022年7月1日~7月24日)
俗に「源平合戦」と呼ばれる治承・寿永の乱(1180-85)から鎌倉幕府の成立を経て、有力御家人たちによる勢力争いへ。大河ドラマやアニメで再び注目を集めているこの時代を取り上げ、平清盛、源義経、源頼朝をはじめ、浮世絵を通して武士たちの栄枯盛衰をたどる。
展示作品は、水野年方の『常盤御前雪中之図』や月岡芳年の『清盛福原に数百の人頭を見る図』など、おなじみの作品もある一方、私があまり知らなかった作品もあった。水野年方の『寂光院』は、三宅青軒の小説『寂光院』の口絵で、華麗な女房装束の美女(出家前の平徳子)をフルカラーで手前に描き、奥に晩年の姿(草深い庵に尼装束の女性が二人)を淡彩でぼんやり描く。小林清親の『宇治川佐々木高綱梶原景季水馬図』は、宇治川の先陣争いの図だが、両者とも馬がほぼ水中に没して、鼻先だけを水面に出して足掻いており、高綱と景季も、馬にまたがるのでなく、鞍につかまって泳いでいるところに妙なリアリティがあって、おもしろい。天保年間の作品とのこと。
逆にフィクションの爽快感があふれるのは、歌川国芳の『和田合戦 義秀惣門押破』。剛勇・怪力で知られた朝比奈義秀が身の丈の何倍もある巨大な門をぶち破り、黒い屋根瓦が雨のように降り注いでいる。やはり国芳描く武士のカッコよさは格別。『本朝武優鏡 無官太夫敦盛』の鎧兜に埋もれた白面の美しさ。『名高百勇伝 平重盛』は、衣冠束帯姿のダンディな重盛。『木曽街道六十九次之内 御嶽 悪七兵衛景清』は、奈良の大仏の肩に乗った景清。へえ~景清には、壇ノ浦以後も生き延びて、東大寺大仏供養の際、頼朝の暗殺を企んだという伝承もあるのか。知らなかった。
『平家物語』や『吾妻鑑』に取材した作品だけでなく、「義経千本桜」の狐忠信など、歌舞伎・浄瑠璃の一場面を絵画化したものもあった。謡曲「船弁慶」などで知られる平知盛の亡霊もよく描かれる。月岡芳年の『新形三十六怪撰 大物之浦二霊平知盛海上二出現之図』は、品のある知盛の図。海の底の平家一門を描いた、歌川芳虎『西海蜑女水底ニ入テ平家ノ一族ニ見』もそのバリエーションだろう。安徳天皇を龍がお守りしている。
なお、会場のところどころに、そっと戯画をしのばせているのはズルい。歌川広重『童戯武者尽 源三位・熊谷』は、鵺らしきケモノに芸をさせる頼政の図と、二八そばの屋台をかついだ敦盛を扇で招く熊谷直実。戯画ではないのだが、広重の『義経一代記之内 義経智略一の谷鵯越逆落し』は、鵯越えの峻険な地形が名所絵ふうに遠望で描かれ、よく見ると、ほのぼのタッチのマンガみたいな武者たちが懸命に駆け下りていて可愛い。作者不詳の『かるたあわせ 鎌蔵武勇六家仙』は、源義経、北条政子、江間小四郎(北条義時)ら六人を歌仙に見立てて、やや皮肉なことわざを取り合わせている。戊辰戦争の頃に出版されたもので、当時の情勢も暗に風刺しているものと推測されている。縞柄の袴で「骨折損のくたびれもうけ」と言われている源義経は会津、絣の袴の北条時政は薩摩だろうか。
太田記念美術館は、以前からnoteというプラットフォームを利用したオンライン展覧会を公開している。購入すると、展示作品全点の画像と作品解説を無期限で閲覧することができるのだ。今回、初めて購入してみたが、紙媒体の図録より安価(800円)で、保管場所に困らないし、画像を拡大して、かなり細部まで確認できるのがとてもよい。もっと広まってほしい試みだと思う。
また、太田記念美術館と山種美術館では相互割引企画「渋谷で日本美術めぐり」を実施中で、これを記念するコラボ動画もYouTubeに上がっている(無料):スペシャルトーク「今、源平の美術が熱い! ~展示作品の見どころ紹介~」。山種美術館のレポートは別稿で。