見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

初春は不思議のキツネ/文楽・本朝二十四孝

2025-01-13 22:07:08 | 行ったもの2(講演・公演)

国立文楽劇場 令和7年初春文楽公演 第3部(2025年1月11日、17:30~)

 今年も大阪の国立文楽劇場で初春文楽公演を見て来た。恒例のお供えとにらみ鯛、と思ったら、「黒門市場様からのにらみ鯛の贈呈は、5年ぶり」と書いてあった。2020(令和2)年以来ということか。この年の正月明けから新型コロナが猛威を振るったのである。コロナ禍の間も、初春文楽公演にはにらみ鯛が飾られていたようだが、黒門市場のサイトによれば、2021年のにらみ鯛は2020年末に奉納したものだったり、2022年は奉納がなかったり(劇場は別ルートで入手?)したらしい。

 「大凧」に干支の「巳」文字を揮毫したのは、赤穂大石神社の飯尾義明宮司。国立文楽劇場は、開場40周年を記念して、昨年11月の公演とこの初春公演第2部で、大作『仮名手本忠臣蔵』の大序から九段目までを通し上演している。

 しかし私は、武士の忠義より伝奇スペクタクルが好物なので、やっぱり第三部の『本朝廿四孝(本朝二十四孝)』を選んでしまった。2階ロビーでは毛色の異なる三匹のキツネちゃんがお出迎え。彼らは昭和の新作文楽『雪狐々姿湖(ゆきはこんこんすがたのみずうみ)』に登場する白蘭尼、コン蔵、右コンとのこと。揃ってもふもふである。

・第3部『本朝二十四孝(ほんちょうにじゅうしこう)・道行似合の女夫丸/景勝上使の段/鉄砲渡しの段/十種香の段/奥庭狐火の段』

 「道行似合の女夫丸」はあまり記憶になかったのだが、自分の記録を調べたら、2020年に見ていた。「景勝上使の段」以下は何度も見ており、直近では2022年に国立劇場で見ている。八重垣姫は、今回と同じ吉田蓑二郎。むかし「十種香」を蓑助さんで見たり、「奥庭狐火」を勘十郎さんで見た記憶がどうしてもよみがえって、それに比べると蓑二郎の八重垣姫は、悪くないけどふつうの娘さんだなあと、ぼんやり思っていた。しかし「奥庭」のクライマックス、白地に狐火文の衣に早変わりしてからの激しい動きには目を見張った。この演目、歌舞伎(日本舞踊)にもあるが、そこで演じられる所作のスピードと、飛び上がり跳ねまわり、身体を左右にスイングして舞い狂う文楽人形のスピードは全く別次元である。もちろん乱暴に人形を振り回せばいいわけではなく、高貴な姫君の品格を忘れてはいけない。生身の人間らしさと、人間を超えたものになろうとする不可思議さのブレンドが絶妙だった。眼福。

 狐火(火の玉)はゆらゆらと流れ、諏訪法性の兜は、白いヤクの毛をひるがえし、意志あるもののように宙に浮かぶ。「奥庭」はキツネちゃんの印象が強いのだけど、四匹勢ぞろいするのは、本当に最後の最後なのだな。今回、私は最前列の席(上手寄り)だったので、キツネちゃんたちの表情も、それを操る人形遣い(出遣いだがプログラムに名前の記載はない)の皆さんの顔もよく見えて楽しかった。

 八重垣姫は深窓育ちのお姫様のはずだが、勝頼=箕作に恋したあとの、恥じらいつつも強引な迫り方には、この子、ギャルだな、と思ってしまった。しかし、この向こう見ずさがなければ、諏訪明神も憑依しないのだろう。一方で、ある意味、八重垣姫の一途な恋心を利用して諏訪法性の兜を武田方に取り返そうとした腰元・濡衣は、冷静沈着な仕事のデキる女性で好き。

 「十種香」で久しぶりに錣太夫と宗助を聴けたのもうれしかった。「奥庭」は芳穂太夫と錦糸で安定感あり。残念なのは、こんなに面白い舞台なのに空席が目立っていたこと。そして東京の国立劇場が閉場して1年以上になるが、やっぱり常設の劇場があるのはいいなあと思った。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする