■大阪市立美術館 特別展『揚州八怪』(2021年6月12日~8月15日)※6月22日より開幕
連休2日目、臨時バスのおかげで高野山を予定より早く離脱することができ、午後の早い時間に大阪・天王寺に到着した。大阪市美の特別展「揚州八怪」は、18世紀の中国・揚州で個性あふれる創作をおこなった書画家たちの作品など73件を展示する(展示替えあり)。
「揚州八怪」を知っている日本人は、どのくらいいるのだろう? 私も、今でこそ中国美術史の用語と認識しているが、初めて中国旅行で揚州に行ったときは、土産物屋で「揚州八怪」の名前にちなんだ8種のお菓子詰め合わせを見て、なにこれ?とあやしんだものだ。中国語の「怪」は風変り・目新しい・不可思議などの意味を持つが、日本語ほど、おどろおどろしいイメージは喚起しないみたいである。
しかも「八怪」というのに8人が確定していないのが面白い。本展では、李鱓・李方膺・高鳳翰・汪士慎・陳撰・辺寿民・華嵒・黄慎・羅聘・楊法・鄭燮・金農の作品を展示し、高翔、閔貞、李葂を加えて計15人を紹介する。ほかに先駆者である傅山や朱耷(八大山人)、後継者である呉昌碩や斉白石の作品も出ていた。
華嵒の『鵬挙図』や辺寿民の『蘆雁図(江岸芙蓉)』(どちらも泉屋博古館所蔵)は、作品に見覚えがあり、この作者は「揚州八怪」だったのか、と認識をあらたにした。李方膺の『梅花図』(京博所蔵)や汪士慎の『梅花図』(大和文華館所蔵、前期展示)も見たことがありそう。若冲など、江戸絵画の梅の描き方は、こうした中国絵画の影響を強く受けているな、と感じる。
また刺激的だったのは、中国・上海博物館の所蔵作品が、高精細な写真パネルで展示されていたこと。いま展示図録をめくっていても、やっぱり目が留まるのは上海博物館のコレクションだ。高翔の墨画図冊『山水図』とか汪士慎の『江南租梅図』とか、李方膺の『風竹図』…いいなあ。もっぱら変わった文字を書く書家だと思っていた金農に淡彩の図冊『山水人物画』や墨画『紅緑梅花図』があることを初めて知った。辺寿民の図巻『花卉八頁』もいいし、黄慎『蛟湖読書図』もいい。この図録、印刷の色彩もとてもきれい。
揚州八怪ではないが、上海博物館には八大山人の図冊『山水花鳥図』(安晩帖みたい!)や石濤の『細雨虬松図軸』(繊細な淡彩)があることも知った。しかし、いつ行っても見られる作品ではないと思うので、デジタル複製を活用した展覧会は、よい試みだと思う。その一方、この展覧会、現物の出陳を予定していたのに、コロナ禍で予定が狂ったのではないか…という一抹の疑いも抱いた。
なお、展覧会の開催趣旨を読んだら、大阪市美が揚州八怪を紹介するのは初めてではなく「1969年以来、じつに52年ぶり」とのこと。こういう市立美術館を持っている文化的成熟度を大阪市民は自慢してよいと思う。そして、今回の特別展にも、老若の熱心なお客さんがけっこう入っていた。
あわせてコレクション展も参観。『秀麗精緻 明清時代の工芸』は名品揃い。コレクション展と言いながら個人蔵が多いのが興味深かった。
■中之島香雪美術館 企画展『上方界隈、絵師済々II』(2021年7月3日~8月22日)
18世紀後半の大阪で活躍し、与謝蕪村に憧れ、呉春に学んだ3人の絵師、上田耕夫(1760-1832)、長山孔寅(1765-1849)、上田公長(1788-1850)を紹介する。やわらかな色彩の風景画が多くて和んだ。呉春の『石譜奇鑒』は28種の石を描いた図譜。中国文人に倣って、奇石を愛でることを趣味としていたことが分かり、面白かった。
この日は、京都に出て投宿。祇園祭・後祭の宵山を見に行った。