○根津美術館 創立75周年記念特別展『根津青山の至宝 初代根津嘉一郎コレクションの軌跡』(2015年9月19日~11月3日)
「根津青山」って何度聞いても地名のようだが、「青山(せいざん)」は、茶人でもあり、鉄道王とも呼ばれた実業家、初代根津嘉一郎(1860-1940)の号である。調べたら、住居(いまの根津美術館)の地名を取って雅号にしたそうだ。本展は、書画と茶道具の名品を中心に初代のコレクションの軌跡を辿る企画である。
同館には長年通っているので、だいたい既知の作品が多かったが、年に一回見られるかどうかの名品が多く、会場に入ったとたん、これは力の入った展覧会だなと感じさせる。伝・李安忠筆『鶉図』とか因陀羅筆『布袋蒋摩訶問答図』とか呂敬甫筆『瓜虫図』とか。馬麟筆『夕陽山水図』は、これを絵画と言っていいのか?と悩むような、わずかな筆数だが、よく見ると遠山の山肌や樹木、さらに手前の空を舞う四羽の燕も丁寧に描かれている。画面の大半を埋めるのは、南宋第5代の皇帝・理宗の賛。神経質でどこか弱々しいが、絵の趣きと合っているようにも思う。鎌倉時代の『鏡山図』は、あまりこれまで見た記憶がなかった。横長の画面の中央に和歌(近江の歌枕・鏡山を詠んだもの)、その周囲にぽつりぽつりと山水や草木が淡い色彩で描かれている。静かでおおらかな作品。『那智瀧図』も久しぶりに見ることができて嬉しかった。
茶道具は、青磁(龍泉窯)の香炉や古銅の花生、堆朱の盆など、中国趣味が濃く、豪気でストイックで男性的な感じがする。茶碗は大ぶりのものが多い印象。光悦作が3点出ており、うち2件が膳所茶碗。1件(個人蔵)はミルクティー色、1件(MOA美術館所蔵)は白地に焦げたキャラメル色の斑を配した牛柄だった。
伝・牧谿筆『蓮燕図』は、長い茎の先の蓮の実(花びらの落ちた芯)に燕がとまっていて、その身の軽さを表現している。松平不昧公旧蔵で、根津嘉一郎が購入後、記念写真を撮って、すぐ売却してしまい、現在は三井記念美術館の所蔵になっている。写真だけ残しておくというドライな感覚が、現代人みたいで面白い。今ならSNSに写真を保存していそう。展示室2には、やはり松平不昧公旧蔵品の大きな銅鑼があった。美音で知られた銅鑼で、嘉一郎の歳暮茶会では、自由に試し打ちして楽しむのを慣例としたという。当時の茶人たち(多くは大実業家)のやることって、ちょっと子供っぽくてかわいい。
いつも茶会のしつらえで楽しませてくれる展示室6は、嘉一郎が亡くなる1週間前に開催した茶会「永久決別の歳暮茶事」を再現している。道具もいいのだが、茶会記の記事がパネルで掲げてあって、料理のメニューをしみじみ読み込んでしまった。
「根津青山」って何度聞いても地名のようだが、「青山(せいざん)」は、茶人でもあり、鉄道王とも呼ばれた実業家、初代根津嘉一郎(1860-1940)の号である。調べたら、住居(いまの根津美術館)の地名を取って雅号にしたそうだ。本展は、書画と茶道具の名品を中心に初代のコレクションの軌跡を辿る企画である。
同館には長年通っているので、だいたい既知の作品が多かったが、年に一回見られるかどうかの名品が多く、会場に入ったとたん、これは力の入った展覧会だなと感じさせる。伝・李安忠筆『鶉図』とか因陀羅筆『布袋蒋摩訶問答図』とか呂敬甫筆『瓜虫図』とか。馬麟筆『夕陽山水図』は、これを絵画と言っていいのか?と悩むような、わずかな筆数だが、よく見ると遠山の山肌や樹木、さらに手前の空を舞う四羽の燕も丁寧に描かれている。画面の大半を埋めるのは、南宋第5代の皇帝・理宗の賛。神経質でどこか弱々しいが、絵の趣きと合っているようにも思う。鎌倉時代の『鏡山図』は、あまりこれまで見た記憶がなかった。横長の画面の中央に和歌(近江の歌枕・鏡山を詠んだもの)、その周囲にぽつりぽつりと山水や草木が淡い色彩で描かれている。静かでおおらかな作品。『那智瀧図』も久しぶりに見ることができて嬉しかった。
茶道具は、青磁(龍泉窯)の香炉や古銅の花生、堆朱の盆など、中国趣味が濃く、豪気でストイックで男性的な感じがする。茶碗は大ぶりのものが多い印象。光悦作が3点出ており、うち2件が膳所茶碗。1件(個人蔵)はミルクティー色、1件(MOA美術館所蔵)は白地に焦げたキャラメル色の斑を配した牛柄だった。
伝・牧谿筆『蓮燕図』は、長い茎の先の蓮の実(花びらの落ちた芯)に燕がとまっていて、その身の軽さを表現している。松平不昧公旧蔵で、根津嘉一郎が購入後、記念写真を撮って、すぐ売却してしまい、現在は三井記念美術館の所蔵になっている。写真だけ残しておくというドライな感覚が、現代人みたいで面白い。今ならSNSに写真を保存していそう。展示室2には、やはり松平不昧公旧蔵品の大きな銅鑼があった。美音で知られた銅鑼で、嘉一郎の歳暮茶会では、自由に試し打ちして楽しむのを慣例としたという。当時の茶人たち(多くは大実業家)のやることって、ちょっと子供っぽくてかわいい。
いつも茶会のしつらえで楽しませてくれる展示室6は、嘉一郎が亡くなる1週間前に開催した茶会「永久決別の歳暮茶事」を再現している。道具もいいのだが、茶会記の記事がパネルで掲げてあって、料理のメニューをしみじみ読み込んでしまった。