見もの・読みもの日記

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鉄道と家族の現代史/中華ドラマ『南来北往』

2024-09-25 23:12:16 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『南来北往』全39集(中央電視台、愛奇藝他、2024年)

「南来北往」は、あちこち、せかせか動き回ることをいう成語である。ドラマの始まりは1978年、主人公の汪新(白敬亭)は中国東北地方の寧陽駅の管区内で「乗警」として働き始めたばかりの若者。私は80~90年代によく中国旅行に行っていたのだが、長距離列車に乗ると、必ずこわもての乗警(鉄道警察官)が乗っていて、身分証や切符をチェックにまわってきた。今は知らないが、なつかしい。

 汪新は幼い頃から父親と二人暮らし。父親は列車長で、鉄道関係者の社宅のようなところに住んでいる。機関士見習いの牛大力、牛大力の憧れである服務員の姚玉玲らもご近所住まい。汪新は、中学の同級生だった馬燕(金晨)のことをいつも気にかけていた。馬燕の父親・馬魁は経験豊富な乗警だったが、あるとき犯人を取り逃がし、しかも犯人が列車から転落して死亡したため、殺人罪に問われて12年間投獄されていたのである。母一人娘一人で苦労をしてきた馬燕。ようやく服役を終えて戻って来た馬魁は、乗警の仕事に復帰し、汪新の師父となる。

 こそ泥、人さらい、刃傷沙汰など、さまざまな事件に遭遇しながら警官として成長していく汪新。馬魁も汪新の素質を認め、期待をかけるようになる。しかし馬燕と汪新の結婚だけはどうしても許さない。馬魁が殺人罪に問われた事件の日、汪新の父親・汪永革は同じ列車に乗務しており、馬魁に落ち度がないことは証言できたはずなのだ。それをしなかった汪永革を、馬魁はどうしても許せなかった。

 【ややネタバレ】あるとき、馬魁に詰問されたショックで昏倒した汪永革は、健忘症を発症してしまう。記憶を失う前に真実を明らかにする決意を固めた汪永革は、事件の日、誤って犯人を突き落としたのは自分だったと告白する。母親のいない汪新をひとりにすることができず、汪永革は事件を黙秘したのだった。動揺する汪新と馬燕。しかし、少しずつ時間をかけて、過去のできごとを受け入れ、馬魁の許しを得て結婚にこぎつける。これが90年代初頭(二人とも30代?)だったと思う。

 1996年の旧正月、馬魁と汪新は麻薬密売組織の黒幕を追って、沿線都市の哈城にいた。黒幕とは、常連の乗客として馬魁たちと旧知の間柄で、汪新の同僚・姚玉玲と結婚した資産家の賈金龍だった。手下とともに逃亡した賈金龍は、列車の車内で馬魁と汪新と対決することになる。そして賈金龍は捕えられたが、揉み合いの末、馬魁は刺殺されてしまう。いや、最終話ですよ。ここでハッピーエンドにしないところが中国ドラマらしい…。最後は2017年、馬魁の墓参に集まった家族・友人たちと、最新鋭の鉄道車内で、定年退職を迎えた蔡小年(汪新の同僚)が、鉄路の発展を祈念するスピーチで全編が終わる。

 実際は、もっとさまざまな人々が入り乱れ、70年代末から90年代の地方都市の生活風景がリアルに展開する。80年代半ばくらいまで、列車内のカオスなこと(座席の下や網棚で寝ていたり)は凄まじいのだが、人情の濃密さには、ちょっと憧れを感じる。攫われた娘を探すため、いつも列車に乗っている盲目の爺さん(倪大紅)(もちろん無賃乗車)と、それを許容する服務員とか。車内に置き去りにされた赤ん坊を実子同然に育てることになる馬魁夫婦とか。近所住まいの人々が家族のように一緒に祝う結婚式の描写もよかった。

 姚玉玲に振られた牛大力が、一念発起して深圳に渡り、ひとまずの成功を収めたらしいのに対して、賈金龍になびいた姚玉玲は、最後にちらりと零落した姿を見せる。こういう運命のすれ違いは、実際に中国社会のあちこちであったのだろう。

 馬燕は、自分で商売をやりたいと父親に懇願し続けるのだが、昔気質の馬魁はなかなか許さない。どうして馬燕は、こんな父親を棄てて飛び出さないんだろうと何度か思ったが、やっぱり中国人にとって家族の重要さは日本人とは違うのだろうか。なお、頑固一徹の馬魁だが、料理や掃除など、家のことは当たり前にする父親である。このドラマ、本当の主人公は馬魁(丁勇岱)だったように思う。そして裏主人公は汪永革(劉鈞)で、もうろくしてヨボヨボしながら、馬魁よりも長生きするのがおもしろかった。どちらも、いま中国ドラマで父親役には欠かせない俳優さんだと思う。


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