見もの・読みもの日記

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1930年代の金融抗争/中華ドラマ『追風者』

2024-12-15 21:10:01 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『追風者』全38集(愛奇藝、2024年)

 1930年代の中国、国民党と共産党の抗争を背景に、金融業界に進んだ青年の奮闘と成長を描く。日本でも人気の王一博の主演ドラマなので、すでに日本でも配信・放映されているらしい。会計学校を卒業した苦学生の魏若来(王一博)は、上海で中央銀行への就職を目指していた。試験の成績は抜群だったが、共産党の革命拠点のある江西省出身であることが難点となった。しかし中央銀行の高級顧問である沈図南(王陽)は、若来の才能を惜しみ、私人助理(私設秘書)として身近に置き、金融業を学ばせる。若来もよく期待に応え、二人は師弟の交わりを結ぶ。

 あるとき、若来の兄・若川が上海に現れるが、彼は共産党の地下党員となっていた。そして共産党員の摘発を任務とする偵緝隊(警察隊)に見つかり、命を落とす。若来は兄がやり残した任務を継ぎ、兄を陥れた共産党内の裏切者への復讐を決意する。

 沈図南の妹・近真(李沁)は、ドイツ留学帰りで軍備に詳しいエンジニアという変わり者だったが、共産党の地下党員にして女スナイパーという、兄の知らない顔を持っていた。近真は、洋裁店の店主と見せて実は地下党員同志の徐諾(王学圻)と語らい、若来を共産党に勧誘することを考える。共産党は革命拠点に銀行を設立したものの、経済や金融に詳しい人材を必要としていた。若来は、次第に近真の正体に気づくが、共産党に対しては警戒を緩めなかった。

 沈図南は三民主義の信奉者で、国民党政府のために働くことに喜びを感じていた。しかし国民党の有力者には私利私欲で動く者が多かった。1932年の第一次上海事変の後、中央銀行は上海復興のための建設庫券(債券)を発行したが、有力者たちはその価格を操作して私腹を肥やした。割りを食ったのは庶民である。義憤に駆られた魏若来は、中央銀行と沈図南に別れを告げ、近真らに協力して、国民党政府の腐敗を告発する。その結果、本格的に追われる身となった若来と近真は、上海を離れ、江西省の共産党根拠地・瑞金に赴く。沈図南は自分の信条に従い、国民党の側に留まりながら、妹たちの逃亡を助ける。

 その後、沈図南は共産党討伐を使命とする特派員を命じられ、偽紙幣をばら撒くなど、経済的な手段で共産党根拠地にゆさぶりをかける。沈図南の部下となった、もと偵緝隊隊長の林樵松(張天陽)は、攻撃の手段を選ばず、彼の仕掛けた爆弾で沈近真は命を落とす。正式に共産党に入党した魏若来は、共産党根拠地で採掘した鎢砂(タングステン)をドイツの商人に売り込み、国民党側の企む数々の障害を突破して交易に成功。1934年10月、共産党は長征の途に就いた。そして1936年末、再び上海を訪れた若来は、埠頭で沈図南の姿を見る。

 基本的に共産党の評価を爆上げする作りになっているのは、まあこの時代を舞台にする以上、仕方ないだろうとゆるい気持ちで見ていた。こういうドラマが面白いかどうかは、敵対側の描き方による。本作は、政治的信条は信条として、異なる道を行く妹と愛弟子を全力で助ける沈図南がカッコよくて目が離せなかった。ただ、最後は共産党根拠地で人々が幸せに暮らしている様子を見て、信条そのものが揺らいでしまうのは、ちょっと残念。

 好きだったのは張天陽さんの林樵松。何をやっても好きな俳優さんだが、古装劇以外で見たのは初めてかもしれない。頭の悪い、ダメな弟分の彪子を可愛がっていて、彪子が死んだあとは、自分も早晩死ぬ覚悟を固めていたように思う。沈図南の従来の秘書・黄従匀もよかった。魏若来に嫉妬しながら、脇目も振らずに沈図南に付き従い、最後は沈図南を護って命を落とす。演者の宋師さんはこれがデビュー作のようだ。本作には男女のパートナーシップも描かれるが、心に残ったのは、男性と男性の、BLではないけど特別に親密な関係だった。その最たるものは魏若来と沈図南。ラストシーンは、いかにも続編あります的な匂わせに感じられたが、さてどうなるだろう。


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