見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

あきらめない刑事たち/中華ドラマ『我是刑警』

2025-01-01 20:21:35 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『我是刑警』全38集(愛奇藝、中央電視台、2024年)

 大晦日に見終わったドラマ。おもしろかった~。ドラマは1990年代から始まる。平凡な若手警官だった秦川(于和偉)は、刑事捜査の資質を認められ、大学で法律を学び、職務に復帰したばかり。1995年1月、西山鉱山の事務所が強盗に襲われ、保安員ら十数名が殺害される事件が起きる。中昌省河昌市の警察隊は、1991年に彼らの同僚が殺害され、銃を奪われた事件との関連を疑う。まだ科学的な捜査設備の整わない中、過去の事件記録の読み直しと論理的な推論で徐々に犯人をあぶり出し、逮捕に至る。

 大きな功績を上げた秦川は、上司と衝突して、西山分局の預審科長(予審=被告事件を公判に付すべきか否かを決定すること?)で冷や飯を食うことになるが、この間にも大規模な食糧盗賊団を摘発するなど成果を挙げる。犯人たちはトンネルを掘って食糧倉庫に近づいていたら棺桶に行き当たってしまったという、これは本作で唯一笑えた事件だった。

 2001年、秦川は中昌省緒城市の刑偵(刑事捜査)支隊長に復帰。いくつかの事件を解決したあと、師匠と慕う刑事捜査の専門家・武老師(丁勇岱)からある事件の相談を受ける。2004年と2005年に昀城市で発生した短銃による殺人と金銭強奪事件。さらに2009年、軍の管轄区の門衛が殺害されて銃を奪われる事件が起き、2010年には渓城市の鋼材工場前で同様の金銭強奪事件が起きる。秦川は昀城と渓城の合同チームを作り上げようとするが、小役人の縄張り根性が邪魔をして、なかなか上手くいかない。彼らを嘲笑うように犯行を繰り返す犯人。当時、街頭の監視カメラは普及していたが、その映像を確認するには人海戦術にたよるしかなかった(今ならAIが使えるのかな)。しかし、とうとうネットカフェの検索履歴から犯人の相貌が明らかになる。その結果、悉皆調査で見逃されていた犯人の住居と家族が判明し、2012年8月、犯人・張克寒は昀城市で捕捉され、手向かおうとしたところを射殺された。

 このドラマは、捜査が犯人にたどりつくまで、視聴者も秦川らと一緒に耐えるケースが多くて、かなりストレスフルなのだが、張克寒の事件だけは(秦川らが知らない)犯人の動きを同時並行で追っていく描き方だった。他の事件では、逮捕された犯人が、それぞれ印象深い供述をするのだが、張克寒は現場で射殺されてしまうため、この描き方を選んだのではないかと思う。

 次いで秦川は、2014年1月に清江市で起きた事件にかかわる。山上のテント拵えの賭博場が何者かに爆破され、多数の死傷者を出したというもの。爆破現場の草を刈り、土を攫う捜査を何日も続け、ついに犯行に使われたと見られるリモコンを発見する。これが手がかりとなって二人組の犯人を逮捕。

 しかし清江市には「清江両案」と呼ばれる積年の未解決事件があり、刑事たちの心痛の種になっていた。秦川は、特に婦女や児童が犠牲となった凶悪な未解決事件の重点的な再捜査に乗り出す。「清江両案」は1998年、警官が殺害されて銃を奪われ、続いて銀行の支店長一家が殺害された事件。「東林案」は林城市東林県で、三人の小学生が性被害に遭い、殺害された事件。「良城案」は1997年に始まる連続婦女殺人事件。「草河案」は若い女性の連続殺害事件。いずれもDNA鑑定や指紋鑑定など、新しい(そして費用のかかる)捜査方法の適用によって解決に至る。

 ただし実験室での鑑定だけで万事が解決するわけではない。東林案では、DNA鑑定によって、犯人は近隣住民の「顧姓の者」と血縁の可能性が高いという結果が示される。東林県の刑事・陶維志(富大龍)は、この可能性を頼りに、家譜や郷土史を読み込み、石碑を探し、車どころか自転車でも通えないような僻地の集落を訪ね歩く。この黄土平原の風景が素晴らしくよかった。

 タイトルを聞いたときは、難事件を次々解決するスーパー刑事が主人公かと思ったのだが、全然違って、ものすごく厚みのある群像劇だった。武老師と秦川の師弟関係(おじさんになった秦川を川児と呼び続ける)もよいし、ちょっと嫌な上司・胡兵(馮国强)も好きだった。汚い恰好で執念だけが取り柄の陶維志も、二人の刑事仲間とあわせて、だんだん好きになった。また、このドラマでは刑事たちだけでなく、犯人やその家族たちも、それぞれ生きた人間が描かれていたと思う。90年代から2000年代の中国では、とにかく金銭を得ることが人間の尊厳と結びついていたということを嚙みしめた。

 なお、ずっと舞台になる中昌省(架空の省)は、序盤の事件では暗くて雪深い北国なのだが、張克寒の事件では長江流域の重慶らしく、清江では背景に少数民族の舞踊が登場し(貴州とか雲南?)、東林案は西北地方の風景である。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ICE STORY 3rd “Echoes of Li... | トップ | 七人の大統領で知る/韓国現... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

見たもの(Webサイト・TV)」カテゴリの最新記事