見もの・読みもの日記

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浅はかさといじらしさ/文楽・冥途の飛脚

2023-11-27 21:49:01 | 行ったもの2(講演・公演)

国立文楽劇場 令和5年11月文楽公演 第3部(2023年11月8日、17:45~)

・近松門左衛門三〇〇回忌『冥途の飛脚(めいどのひきゃく)・淡路町の段/封印切の段/道行相合かご』

 今秋の大阪公演は行かれないかな、と思っていたのだが、直前に調整をつけて、見に行くことにした。直前でも席が余っていたので心配したが、まあまあ後ろのほうまで埋まっていたように思う。近松門左衛門(1653-1725)三〇〇回忌の今年、春に『曽根崎心中』、秋に『冥途の飛脚』を見ることができて嬉しい。

 私は、学生時代に『曽根崎心中』で文楽の面白さを知ったが、年齢を重ねるにつれ、一番好きなのは『冥途の飛脚』になってきた。忠兵衛は、救いようもなく浅はかなのに、なぜあんなにいじらしいのだろう。忠兵衛を囲む人々は、みな道理をわきまえた大人である。息子の嘘に騙される母親も、忠兵衛の行く末を案じて遊女たちに言いつけに来る八右衛門も、自由のない身の不幸を嘆きつつ、じっと耐える梅川も。けれども、その予定調和の世界を踏み破って、梅川をさらって破滅に突き進んでいくのが忠兵衛である。

 人形は忠兵衛を勘十郎さん。私は2021年2月にも勘十郎さんの忠兵衛を見ていて「封印切の場面では、切るぞ切るぞという気構えが外に現われ過ぎな感じもする」と感想を書いているが、今回は全くそんな雰囲気はなかった。近年の勘十郎さんは、どんな配役でも、すっかり気配を消してしまうようになられた。ちなみに私は、2017年2月に玉男さんでも見ていて、玉男さんの忠兵衛、また見せてくれないかな、と思っている。

 本公演のプログラム冊子「技芸員にきく」は、吉田玉男さんへのインタビューで、聞き手の坂東亜矢子さんが「近年ますます、初代玉男師匠に似てこられたように感じます」と話を向けている。玉男さんが「これから、師匠が遣われた役はもちろん、なさっていない役にも新たに挑戦したいと思っています」と応じていらっしゃるのが興味深い。初代玉男師匠が遣っていない役って、何があるのだろう。

 床は、淡路町が安定の織太夫と燕三。織太夫さんの語りを聞いていると、あまりにも気持ちよくて、自分も声を出したくなってしまう。封印切が千歳太夫と富助。床の脇に控えていた若手の太夫さんは誰だっけな? むかし千歳太夫さんが床の脇に控えていたのを覚えているので、世代が一回りしたことを感じて、しみじみしてしまった。

 国立文楽劇場、飲食について検索すると「劇場内にレストラン、またお弁当の販売は有りません」という古い記事が上がってきてしまうが、お弁当の販売は復活していた。次回は劇場でいただこう。


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