○たばこと塩の博物館 開館30周年記念特別展『近世初期風俗画、躍動と快楽』(2008年10月25日~11月30日)
http://www.jti.co.jp/Culture/museum/WelcomeJ.html
先週末で終わった展覧会だが、せっかく行ったので書いておこう。近世初期(16世紀末~17世紀中頃、慶長~寛文頃)風俗画の名品を集めた展覧会。多くは屏風絵である。近世初期というのは、とても面白い時代である、ということを、最近、感ずるようになった。図式的な理解かもしれないけれど、宗教的呪縛の中世から、政治的束縛の近世へ移行する間に、ぽっかり浮かんだ異次元空間のような伸びやかさががある。
そのことを最も強く実感させるのが、風俗図屏風である。なんといっても人々が身にまとう衣装の、自由で大胆なデザイン。それから、ジェンダーの混乱。描かれた人々の性別は全く定かでない。男装した女芸人は少年に色目を遣い、観客の男女は誰に熱い視線を送っているのやら。
もっとも、大勢の男女が群れ集う遊楽図は、この世ならぬ「理想世界」の表現である、という解説もあった。今日、風俗図と呼ばれるものが、本当に当時の風俗を表しているのかどうかは、慎重に考えなければならない。あでやかな小袖で輪舞に興ずる女性たちは、阿弥陀聖衆来迎図の変奏形かもしれないのだ。
風俗図屏風を楽しむには、とにかく細部に目を凝らすことだ。路上の商売人は何を売っているか。お茶屋の前にしゃがんだ男は、財布を出そうとしているのかな?(四条河原遊楽図・個人蔵) 開いた扇を膝の前に置くのは、寺社参詣の作法だったようだ(江戸名所遊楽図など)。今と変わらない相撲や文楽興行の図もある。西尾市岩瀬文庫蔵『四条河原遊楽図』では、舞台上(左隻)に侏儒(こびと)がいる!
中国やヨーロッパの宮廷ならともかく、日本にも芸能に携わる侏儒っていたのだろうか。調べてみたら、天武紀に「能く歌う男女及び侏儒伎人を選びて」貢上させたという記録があるそうだが、その伝統が近世初期まで永らえていたとは、びっくりである。こういう絵画史料って、実はもっとあるのかなあ。われわれ一般人の目に触れないだけで。
また、本展は「たばこと塩の博物館」らしく、喫煙具や刻みたばこ売りの図像にも注意をうながす。肩にかつぐような長大なキセルは、階下の常設展示室に実物もあって、面白かった。
開館30周年記念シリーズということで、来週から始まる特別展『おらんだの楽しみ方』にも期待が持てる。関連講演会も豪華ラインナップである。
http://www.jti.co.jp/Culture/museum/WelcomeJ.html
先週末で終わった展覧会だが、せっかく行ったので書いておこう。近世初期(16世紀末~17世紀中頃、慶長~寛文頃)風俗画の名品を集めた展覧会。多くは屏風絵である。近世初期というのは、とても面白い時代である、ということを、最近、感ずるようになった。図式的な理解かもしれないけれど、宗教的呪縛の中世から、政治的束縛の近世へ移行する間に、ぽっかり浮かんだ異次元空間のような伸びやかさががある。
そのことを最も強く実感させるのが、風俗図屏風である。なんといっても人々が身にまとう衣装の、自由で大胆なデザイン。それから、ジェンダーの混乱。描かれた人々の性別は全く定かでない。男装した女芸人は少年に色目を遣い、観客の男女は誰に熱い視線を送っているのやら。
もっとも、大勢の男女が群れ集う遊楽図は、この世ならぬ「理想世界」の表現である、という解説もあった。今日、風俗図と呼ばれるものが、本当に当時の風俗を表しているのかどうかは、慎重に考えなければならない。あでやかな小袖で輪舞に興ずる女性たちは、阿弥陀聖衆来迎図の変奏形かもしれないのだ。
風俗図屏風を楽しむには、とにかく細部に目を凝らすことだ。路上の商売人は何を売っているか。お茶屋の前にしゃがんだ男は、財布を出そうとしているのかな?(四条河原遊楽図・個人蔵) 開いた扇を膝の前に置くのは、寺社参詣の作法だったようだ(江戸名所遊楽図など)。今と変わらない相撲や文楽興行の図もある。西尾市岩瀬文庫蔵『四条河原遊楽図』では、舞台上(左隻)に侏儒(こびと)がいる!
中国やヨーロッパの宮廷ならともかく、日本にも芸能に携わる侏儒っていたのだろうか。調べてみたら、天武紀に「能く歌う男女及び侏儒伎人を選びて」貢上させたという記録があるそうだが、その伝統が近世初期まで永らえていたとは、びっくりである。こういう絵画史料って、実はもっとあるのかなあ。われわれ一般人の目に触れないだけで。
また、本展は「たばこと塩の博物館」らしく、喫煙具や刻みたばこ売りの図像にも注意をうながす。肩にかつぐような長大なキセルは、階下の常設展示室に実物もあって、面白かった。
開館30周年記念シリーズということで、来週から始まる特別展『おらんだの楽しみ方』にも期待が持てる。関連講演会も豪華ラインナップである。