見もの・読みもの日記

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殿様も登場/我ら明清親衛隊(板橋区立美術館)

2012-12-22 23:34:40 | 行ったもの(美術館・見仏)
板橋区立美術館 特別展・江戸文化シリーズNo.28『我ら明清親衛隊-大江戸に潜む中国ファン達の群像』(2012年12月1日~2013年1月6日)

 先週(12/15)記念講演会を聴きに行ったのだが、後期(12/17~)から登場の作品も見たくなって、もう一回行ってきた。以下のレポートは、主に後期の展示に沿って書く。

 図録掲載の安村敏信先生の文章によれば、17世紀には後の上方画壇に影響を与える二つの出来事が中国からもたらされた。一つは黄檗僧逸然の来日。→鶴亭、蕭白の色遣い。一つは『八種画譜』の輸入と翻刻。→南画。18世紀に入ると、さらに二つの出来事が。一つは蘇州版画の流入。→初期浮世絵の透視図法や応挙の眼鏡絵。もう一つは沈南蘋の来日である。

 ということで、ロビー奥のコーナーでは大判の蘇州版画1点と、ちょっと「やりすぎ」の透視図法を用いた初期浮世絵を数点展示。藤原鎌足の「玉取」伝説を題材にしたものが並べてあって、竜宮城の描き方を比べてみると面白かった。以下、主な絵師と作品を紹介していこう。

・黒川亀玉…江戸で最も早く唐絵(新しい中国風の絵)を始めた画家。前期に出ていた『白梅黄鳥図』や『海棠白頭翁図』も、暖色系の明るい色遣い、生気にあふれた愛らしい小鳥がいいなと思ったけど、後期の『日の出鶴図』はさらに好きだ。桃の木に舞い降りる鶴を、ほぼシンメトリーの安定した構図で描く、臆面もない目出度さ、ハイパーリアルな鶴の尾羽の質感も目を引く。小さい作品だけど、赤のきれいな『関羽図』もいい。

・建部綾岱…南蘋画を学んだが、目を病んだため、細密描写を用いず、枯淡な味わいの淡彩墨画を描いた。画題が南蘋ふうなのに、画風が裏切っているところが独特で面白い。建部綾岱って国学者の建部綾足のことか…って、以前も書いたような気がする。

・諸葛監…本名・清水又四郎。中国人ふうの名乗りからして本格派で、唐絵の上手として定評があった。『罌粟に鶏図』は若冲の先鞭という感じもする(かなりアッサリだけど)。

・宋紫石…南蘋画といえばこの人、と思っていたが、本展では、意外とアッサリしてさわやかで可憐な作品が多かった。細部は緻密に描き込まれていても、広い余白に余韻が漂う。後期の『十八羅漢図巻』かわいかったなー。13人しか見られなかったけど。

・松林山人、渡辺玄対、司馬江漢、藤田錦江、岡岷山、董九如、土方稲嶺…それぞれ達者な花鳥画。縦長の画面を斜めに横切る木の枝。鳥のポーズにはいくつか定型があるように思う(振り返る、下から見上げる、など)。口を開けた鳥がよく描かれるのは、画面に「声」を添える工夫なのかな。司馬江漢描くカワセミが、ポケモンのキャラみたいに精悍で可愛かった。ええと、源鸞卿=本名・山本又三郎は、軍師・山本勘助の一族につながるという、どうでもいい解説に反応してしまった。

・森蘭斎…顔の怖い鹿の絵。木村蒹葭堂と交友あり。上方では南蘋画があまりふるわなかったので、江戸に出たという。そうそう、南蘋画は江戸で大流行だったんだな。府中市美術館の『三都画家くらべ』でもそんな話だった。ちょっと不思議。大阪との親近性のほうが高そうなのに。

・金子金陵…この展覧会で初めて知った画家の中で、いちばん気に入ったのはこの人。とにかく色彩がきれいだった。でも図録の写真だと、その魅力が今ひとつ伝わってこないのだけど。そして、うーん、実はどこが中国ふうなのかよく分からない。このあとに、渡辺崋山、椿椿山と、やっと知っている名前が出てきた。

・鈴木鵞湖…『雪山図』の題材は三国志からだが、雪化粧した山水が、あまり中国的でないのがほほえましい。

・岡本秋暉…聞き覚えのある名前と思ったら、東博の「平成23年度新収品」でたくさん資料の入った画家だった。『百花一瓶図』の色彩の洪水はすごい。

・増山雪斎…前期の『孔雀図』(普通の孔雀雌雄/白孔雀の対幅)、後期の『牡丹と鶏図』の鶏(白い羽毛、赤と青の混じった目元)どちらもすごかった。この人、伊勢長島藩の藩主だったと知って、びっくり。Wikiに「政治面では無能な藩主であった」と書かれてしまっているけど…。隠居して巣鴨の下屋敷に住んでいたのか。いいな~江戸時代。

・松平定信…うむ、この人も絵を描いていたのか。『達磨図』は添えられた解説に「素人っぽさにあふれていて、かえって気持ちがよい」「異様に大きなサインも殿様らしくてよろしい」とあって、笑えた。

 いろいろ面白い絵もあったが、実は「当時の中国画」の実態が私にはよく分かっていないので、むしろ江戸の絵師たちの作品を見ながら、当時の中国画って、こんなだったのかなあ…と思いをめぐらす展覧会だった。

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