○『隋唐演義~集いし46人の英雄と滅びゆく帝国~』全62集(2013年、浙江永楽影視制作有限公司)
久しぶりに中国ドラマが見たくなって、いろいろ探しているうち、この作品に行きついた。YouTubeで中国語版も見つけたが、GYAO!ストアで日本語字幕版を購入しながら、3ヶ月近くかけて見た。
時代は6世紀末。隋の初代皇帝・楊堅(文帝)が陳を滅ぼし、南北統一を成し遂げたところから物語は始まる。遠征軍の総指揮官は皇帝の次男楊広(後の煬帝)で、陳の皇妃の一人だった蕭美娘を連れ帰る。楊広は、父母の前では信心深い孝行息子を演じながら、次第に牙を剥き、ついに帝位を簒奪する。楊広の放逸と悪行に加担し、皇后となる蕭美娘。楊広の相国として、絶大な権力と冨を掌握した宇文化及。一方、宮廷の悪政に心を痛めながら、あくまで隋に従った忠臣たちもいた。楊広の叔父でもある靠山王・楊林もそのひとり。のちの唐高祖・李淵とその息子たちも隋の功臣だった。
民間では、各地で「反隋」の動きが活発化する。隋の下級役人(馬快班頭)だった秦瓊も、いろいろ辛酸を嘗めた末、反乱軍に加わることを決意する。ついに瓦崗寨(がこうさい)に結集した46人の英雄は兄弟の契りを結び、隋を倒して泰平の世をつくることを誓う。けれども秦瓊の妻・玉児の養父は隋の忠臣楊林だったり、瓦崗寨に加わった羅成の父親は北平王だったり、複雑な人間関係に悩みながら、英雄たちは戦う。
次第に戦力を削がれ、人心を失った楊広は、腹心の宇文化及に弑される。しかし、混乱の広がりによって、瓦崗寨の英雄たちも一部は命を落とし、残った者は散り散りになる。この殺伐とした展開は中国ドラマらしくて好き。運命が非情だから、それに抗う家族や義兄弟の絆が際立つのである。秦瓊、程咬金、魏徴、徐茂公らは、李世民を見込んで、唐王李淵のもとに身を寄せるが、かつて李家に一族を皆殺しにされたことのある緑林(盗賊)の元締め・単雄信は、唐に帰順することを潔しとせず、斬首となって果てる。
「隋唐演義」は清代に成立した通俗歴史小説で、日本では、安能務、田中芳樹によるリライト本が出版されているそうだが、私は読んでいない。しかし「隋唐演義」は読んでいなくても、隋唐の歴史は大好きなので、登場人物の名前やストーリーの進行にはすぐなじんだ。悪逆非道の皇帝・楊広の逸話はもちろん、隋末の覇権を唐と争った江世充や竇建徳、李密。唐の功臣として名を残した尉遅敬徳や李靖、魏徴などは、ちらっと映るだけでもわくわくしてしまう。
ドラマの中心人物である秦瓊(淑宝)のことはよく知らなかった。唐の「凌煙閣二十四功臣」の一人というから実在人物なんだろうけど。尉遅敬徳と対になって「門神」に描かれる人物と聞いて、あ~と思った。演じている厳寛(イェンクァン)という俳優さんが非の打ち所のないイケメン。キャラクターとしても文武に優れ、誰からも尊敬される人格者である。李世民も同じく人格者だが、このドラマでは少し個性が弱い。しかし、終盤になるにつれて、英雄たちが李世民のもとに集まってくる気持ちは分かる。こういうあまり無茶をしないリーダーって中国の歴史や小説に時々あらわれるなあ。
その他は、それぞれ一癖も二癖もあるキャラクターが多い。日本のドラマだったら、こういう造形は絶対しないだろうと思うこともあって面白かった。トラブルメーカー程咬金の反省のなさには本当に腹が立ったぞ。味方なのに。いや、むしろ切ないのは李密や王伯当かな。かつての恩人を捨てられず、大切な兄弟を裏切ってしまう。あと、超人的に怪力だったり武芸が強いけど、頭の中は(いい意味で)「馬鹿」という羅士信や李元覇みたいなキャラクターも中国ドラマではよく見る。楊広役の冨大龍(フーダーロン)は怪演と言っていいだろう。それ以上に印象的だったのは、宇文化及の息子の宇文成都(架空の人物らしい)。ほぼ天下無敵の武芸を誇りながら、秦瓊の妻となる玉児に一途に求愛し続け、思いを叶えることができない可哀想な大将軍。羅成と盈盈の若いカップルも可愛かった。中学生がじゃれているみたいだったのが、終盤には、いろいろ試練を乗り越えて大人になっていた。なぜか程咬金を兄と慕う尤俊達もおかしなおじさんだった。書いていると切りがない。
私が隋唐の英雄でいちばん好きなのは李勣なのだが、いくら待ってもドラマに出てこない。しかし、李勣の元の姓は徐、字は懋功であることを思うと、瓦崗寨の軍師・徐茂公が李勣の分身なのではないかと気がつき、最終回で英国公に封じられたことで確信した。もっと端的に武人のイメージなんだけど、ドラマでは諸葛孔明みたいな造形で、いつも「無量天尊」を唱えている。終盤に活躍が増え、李世民を守って単雄信に兄弟の縁を切られるところが見せ場。演じたのは杜奕衡(ドゥイーフン)といって、アンディ・ラウのスタント出身の俳優さん。個性の強さが気に入ってしまった。覚えておこう。
あと、本当にどうしようもないキャラクターだと思っていた程咬金は、凌煙閣二十四功臣の程知節のことで「旧唐書」にも記載があるらしい(演じたのは姜武=ジャンウー)。くだらないと思った劇中エピソードも、実はきちんと典拠があったりするようだ。瓦崗寨の英雄たちは、日本語字幕ではずっと名前呼びだけど、中国語を聞いていると、義兄弟の盟約を結んで以降は「三哥」「五弟」呼びになり、瓦崗寨を離れても、最後までこのように呼び合うのが切ない。
※2016年4月~CS「チャンネル銀河」でも放映中
久しぶりに中国ドラマが見たくなって、いろいろ探しているうち、この作品に行きついた。YouTubeで中国語版も見つけたが、GYAO!ストアで日本語字幕版を購入しながら、3ヶ月近くかけて見た。
時代は6世紀末。隋の初代皇帝・楊堅(文帝)が陳を滅ぼし、南北統一を成し遂げたところから物語は始まる。遠征軍の総指揮官は皇帝の次男楊広(後の煬帝)で、陳の皇妃の一人だった蕭美娘を連れ帰る。楊広は、父母の前では信心深い孝行息子を演じながら、次第に牙を剥き、ついに帝位を簒奪する。楊広の放逸と悪行に加担し、皇后となる蕭美娘。楊広の相国として、絶大な権力と冨を掌握した宇文化及。一方、宮廷の悪政に心を痛めながら、あくまで隋に従った忠臣たちもいた。楊広の叔父でもある靠山王・楊林もそのひとり。のちの唐高祖・李淵とその息子たちも隋の功臣だった。
民間では、各地で「反隋」の動きが活発化する。隋の下級役人(馬快班頭)だった秦瓊も、いろいろ辛酸を嘗めた末、反乱軍に加わることを決意する。ついに瓦崗寨(がこうさい)に結集した46人の英雄は兄弟の契りを結び、隋を倒して泰平の世をつくることを誓う。けれども秦瓊の妻・玉児の養父は隋の忠臣楊林だったり、瓦崗寨に加わった羅成の父親は北平王だったり、複雑な人間関係に悩みながら、英雄たちは戦う。
次第に戦力を削がれ、人心を失った楊広は、腹心の宇文化及に弑される。しかし、混乱の広がりによって、瓦崗寨の英雄たちも一部は命を落とし、残った者は散り散りになる。この殺伐とした展開は中国ドラマらしくて好き。運命が非情だから、それに抗う家族や義兄弟の絆が際立つのである。秦瓊、程咬金、魏徴、徐茂公らは、李世民を見込んで、唐王李淵のもとに身を寄せるが、かつて李家に一族を皆殺しにされたことのある緑林(盗賊)の元締め・単雄信は、唐に帰順することを潔しとせず、斬首となって果てる。
「隋唐演義」は清代に成立した通俗歴史小説で、日本では、安能務、田中芳樹によるリライト本が出版されているそうだが、私は読んでいない。しかし「隋唐演義」は読んでいなくても、隋唐の歴史は大好きなので、登場人物の名前やストーリーの進行にはすぐなじんだ。悪逆非道の皇帝・楊広の逸話はもちろん、隋末の覇権を唐と争った江世充や竇建徳、李密。唐の功臣として名を残した尉遅敬徳や李靖、魏徴などは、ちらっと映るだけでもわくわくしてしまう。
ドラマの中心人物である秦瓊(淑宝)のことはよく知らなかった。唐の「凌煙閣二十四功臣」の一人というから実在人物なんだろうけど。尉遅敬徳と対になって「門神」に描かれる人物と聞いて、あ~と思った。演じている厳寛(イェンクァン)という俳優さんが非の打ち所のないイケメン。キャラクターとしても文武に優れ、誰からも尊敬される人格者である。李世民も同じく人格者だが、このドラマでは少し個性が弱い。しかし、終盤になるにつれて、英雄たちが李世民のもとに集まってくる気持ちは分かる。こういうあまり無茶をしないリーダーって中国の歴史や小説に時々あらわれるなあ。
その他は、それぞれ一癖も二癖もあるキャラクターが多い。日本のドラマだったら、こういう造形は絶対しないだろうと思うこともあって面白かった。トラブルメーカー程咬金の反省のなさには本当に腹が立ったぞ。味方なのに。いや、むしろ切ないのは李密や王伯当かな。かつての恩人を捨てられず、大切な兄弟を裏切ってしまう。あと、超人的に怪力だったり武芸が強いけど、頭の中は(いい意味で)「馬鹿」という羅士信や李元覇みたいなキャラクターも中国ドラマではよく見る。楊広役の冨大龍(フーダーロン)は怪演と言っていいだろう。それ以上に印象的だったのは、宇文化及の息子の宇文成都(架空の人物らしい)。ほぼ天下無敵の武芸を誇りながら、秦瓊の妻となる玉児に一途に求愛し続け、思いを叶えることができない可哀想な大将軍。羅成と盈盈の若いカップルも可愛かった。中学生がじゃれているみたいだったのが、終盤には、いろいろ試練を乗り越えて大人になっていた。なぜか程咬金を兄と慕う尤俊達もおかしなおじさんだった。書いていると切りがない。
私が隋唐の英雄でいちばん好きなのは李勣なのだが、いくら待ってもドラマに出てこない。しかし、李勣の元の姓は徐、字は懋功であることを思うと、瓦崗寨の軍師・徐茂公が李勣の分身なのではないかと気がつき、最終回で英国公に封じられたことで確信した。もっと端的に武人のイメージなんだけど、ドラマでは諸葛孔明みたいな造形で、いつも「無量天尊」を唱えている。終盤に活躍が増え、李世民を守って単雄信に兄弟の縁を切られるところが見せ場。演じたのは杜奕衡(ドゥイーフン)といって、アンディ・ラウのスタント出身の俳優さん。個性の強さが気に入ってしまった。覚えておこう。
あと、本当にどうしようもないキャラクターだと思っていた程咬金は、凌煙閣二十四功臣の程知節のことで「旧唐書」にも記載があるらしい(演じたのは姜武=ジャンウー)。くだらないと思った劇中エピソードも、実はきちんと典拠があったりするようだ。瓦崗寨の英雄たちは、日本語字幕ではずっと名前呼びだけど、中国語を聞いていると、義兄弟の盟約を結んで以降は「三哥」「五弟」呼びになり、瓦崗寨を離れても、最後までこのように呼び合うのが切ない。
※2016年4月~CS「チャンネル銀河」でも放映中