見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

恐れ知らずのロードムービー/中華ドラマ『歓顔』

2023-08-13 19:12:49 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『歓顔』全18集(企鵝影視、新自序影視制作、2023年)

 出演者に好きな俳優さんが多かったので、軽い気持ちで見たら面白かった。物語は、1930年の広東省の汕尾から始まる。青年・徐天の父親は南洋で事業に成功し、中国共産党を支援していた。徐天は父親の言いつけで、金塊(延べ棒)を指定された共産党員に届け、親の定めた婚約者に会って結婚するため、上海に向かおうとしていた。

 上海まで徐天を護衛することになったのは中年男の老孫。しかし汽車の中で盗賊団に襲われ、金塊は三本に割れ、徐天は婚約者の写真と手紙の入った財布を奪われる。福建省(閩西)の田舎町の質屋で財布は取り返したものの、逆に金塊を強奪されてしまう。老孫は旧知の仲の王鵬挙を訪ね、王鵬挙は、馬天放・胡蛮の二人を誘って夜半に質屋を襲撃する。しかし金塊は、心変わりした胡蛮に持ち去られてしまう。

 老孫と徐天がたどりついたのは、巨大な土楼。二人は、この一帯を治める兪家の筆頭人・兪亦秀に助力を請う。しかし兪亦秀が招集した一族の重鎮たちは、二人が質屋を襲撃し、兪家の面目を潰したことを非難する。そして徐天が目を離した隙に、老孫は撃ち殺されてしまう。老孫を殺害したのは兪亦秀だった。老孫は自分の命を差し出して兪家の面目を贖うとともに、金塊と徐天の無事を守ることを兪亦秀に託したのだった。

 金塊を持ち去った胡蛮は、江西省の都会で賭け事に興じていた。徐天は兪舟と名乗る男に出会う。滅法賭けに強い兪舟は、思いを寄せる女性の声を電話でひとこと聴くため、徐天に仲介を頼み、徐天に条件として示された金塊を胡蛮から取り戻す。一方、老孫との約束を守ろうとする兪亦秀は、自分の命を賭けて兪舟との勝負に挑み、敗れる。

 ようやく金塊を取り戻した徐天の前に現れたのは馬天放。馬天放の正体は国民党の工作員で、徐天が上海で金塊を渡すはずの共産党員を狙っていた。二人は汽車の中で揉み合いになり、負傷した徐天は浙江省の田舎町で医師の手当てを受ける。隙を見て逃げ出した徐天を助けてくれたのは、共産党シンパの医師・章加義とその妻の刀美蘭だった。

 ついに上海に到着した徐天。しかし婚約者の仰止は、すでに国民党の監視下にあった。安徽省から連れて来られた孤児の賈若蘭は、ずっと仰止に成りすまして徐天と文通するうち、いつか徐天に恋をしていた。賈若蘭に出会った徐天は、彼女が偽物であることを見抜く。徐天の愛を得られず、絶望して死を選ぶ賈若蘭。そして馬天放を追ってきた章加義と、武器オタクの商売人・陶涛の協力で、徐天は仰止を救出し、共産党員に金塊を渡して任務を終える。まずまずのハッピーエンド。

 この荒唐無稽な物語に不思議な魅力があるのは、登場人物たちに一定のリアリティがあるからだろう。いちおう主人公は共産党を支持し、敵方は国民党ということになっているが、そこはあまり重要ではない。主義や思想ほど尊いものでなくても、自分の欲しいもの、あるいは自分が大事だと思うもの、金、権力、愛情、家族、たまたま交わした約束など、何かのために全身全霊を賭ける人々が登場する。その「何か」の前では、自分の命も通俗的な善悪も意味がないので、彼らはどんどん殺し合い、死んでいくが、湿った感傷はない。中国の史書や伝奇に登場する「侠客」の生き方・死に方に通じるものがあるように思った。

 徐天はのんびりしたお坊ちゃんで登場するが、最後は立派な過激派に成長する。董子健、やっぱり巧い。私が好きだったのは、張魯一が演じた兪亦秀。くせもの揃いの登場人物の中でも、極めつけに理解しがたい変人なのだが、童子のような無邪気さが魅力だった(Far away!)。中国語タイトル「歓顔」は笑顔の意味らしいが、英語タイトル「Fearless Blood」(恐れ知らずの血)との合わせ技が洒落ている。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 昭和の子ども時代/いとしの... | トップ | 深川八幡祭り2023 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

見たもの(Webサイト・TV)」カテゴリの最新記事