○世界遺産登録推進 3館連携特別展『武家の古都・鎌倉』
■神奈川県立金沢文庫 『鎌倉興隆-金沢文庫とその時代-』(2012年10月13日~12月2日)
世界遺産への登録を目指す「武家の古都・鎌倉」を共通テーマに掲げ、神奈川県立歴史博物館、神奈川県立金沢文庫、鎌倉国宝館による三館連携特別展が開催されている。まずは、金沢文庫から訪ねてみた。
展示室に入って、ああ、久しぶりに金沢文庫らしい企画だな、と思った。仏像や仏画もいいけど、こういう歴史資料をじっくり読み込む展示も嫌いじゃない。文書だけが並んでいるわけではなくて、俗人の肖像画、彫像、工芸、仏像・仏具など、古道具屋の店先かと思うほど、バラエティに富んでいる。『一遍聖絵』は、山口晃さんが著書『ヘンな日本美術史』に、絹本は”白”がいのち、と書いていたのを思い出しながら眺めた。称名寺所蔵の古幡残闕、玉簾(ガラス棒を綴じ糸で編み結んだもの)、玉華鬘(水晶玉を刺し連ねたもの)など、あまりこの文庫でも見たことのないお宝が並んでいた。
文書では、鎌倉時代の「日本図」(ただし西半分のみ)が面白かった。日本の周囲を、蛇体らしきものがぐるりと囲んでいる。ただし、対馬と隠岐島はその外側にある。戦国時代の「日本図」(千葉・妙本寺所蔵)はもっと素朴。中世には、知識人でもこの程度の世界認識だったんだから、固有の領土とか言ってもしょうがない、と思うのに…。
称名寺聖教(金沢文庫古文書)には、元朝の太祖テムジンからの国書や高麗からの国書の写しも残されていて、当時の「アジアの中の日本」をめぐる想像が刺激される。一方には、美しい青磁、宋版漢籍が伝えた知識と思想、世界とつながるということは、善美なものも流入するけど、脅威や災厄も避けられないということなんだな、と思う。図録(後述)の写真はあまり大きくないが、印刷がいいので、これらの文書の本文を、ゆっくり手もとで読むことができるのは、とてもありがたい。
文書類は、ほとんどゴミみたいな切れ端からも、いろいろ重要なことが分かるとか、権門僧侶の堕落を諷刺した『天狗草紙絵巻』の詞書が、それと分からないような表題で収蔵されている、というのも面白かった。展示室の外のケースにあった「金沢文庫印」の紹介では、こんなに種類があるのか、と驚く。古文書の価値をあげるために作られた偽物もあると知って、苦笑。
■神奈川県立歴史博物館 『再発見!鎌倉の中世』(2012年10月6日~12月2日)
引き続き、横浜に移動。チラシには「掘り出された中世都市鎌倉」のサブタイトルがついているとおり、出土文化財が多い。完璧な姿のまま、大切に尊ばれて、人々の手を渡ってきた伝世品の武具や磁器に比べると、赤さびた鎧の小札、刀装具、磁器や漆皿の断片、さらには折烏帽子(!)、下駄、箸など、生々しすぎて、悲鳴をあげたくなるものもある。材木座遺跡出土の人骨(東京大学総合研究博物館所蔵)も展示されているので、覚悟をして出かけたほうがいい。いや、噂に聞いたことがあるだけのものを見ることができて、貴重な機会だったと思うけど…。
めずらしいところでは、歴博の『前九年合戦絵詞』が出ている。それから、あ、これ称名寺の青磁だ、と思うものや、鎌倉国宝館でよく見る境内絵図がこっちに来ているのを見つけた。逆に金沢文庫には、県立歴史博物館所蔵の北条時頼像が出ていた。見慣れた作品でも、場所が変わり、一緒に並ぶものが替わると、なんだか新鮮な感じがする。
また、三上次男氏、赤星直忠氏、八幡義生氏、沢寿郎氏など個人名とともに展示された出土遺物、古写真群が大量にあった。いずれも鎌倉の文化財研究と文化財保護に力を尽くされた方々で、赤星直忠氏、八幡義生氏の出土遺物コレクションは、県立歴史博物館が保管しているという。それ以上に感銘を受けたのは、両氏の調査資料で、丁寧な筆跡、内容の綿密さもさることながら、書籍の外箱やデパートの包装紙で補強された手作りノートの外観を眺めていると、研究者人生の醍醐味がしみじみ伝わってくるように思った。
私は短期間だけ逗子市に住んだことがあるのだが、あらためて航空写真や地形図で眺める鎌倉、明治から戦後の宅地開発に至る古写真も面白かった。昭和8年以降の「勝長寿院跡」の写真を見て、今年、源義朝と鎌田正清の供養塔を探しに行ったことを思い出した。こんなのんびりした田園風景は跡形もないが、山に囲まれた谷戸のかたちや曲がりくねった細い道は、今も面影が残っているように思う。
かなり厚い図録は、3館連携で1冊。歴史博物館で購入。鎌倉国宝館はまた後日の予定だったが、図録を見たら、かなり珍しい作品が出ている。鎌倉だけでなく、京都・奈良・静岡・愛知などの寺院からの出品も。点数の多さにハッとして、国宝館のホームページを見に行ったら、前後期×1~3期という煩瑣な展示替えが組み込まれていて、すでに展示が終わっているものも多かった。がーん。この展示替えって、ありがたいんだか何だか。
※参考:武家の古都・鎌倉-世界遺産登録を目指して
神奈川県・横浜市・鎌倉市・逗子市の「世界遺産登録推進委員会」が運営するサイト(らしい)。2013年6~7月頃、第37回ユネスコ世界遺産委員会において登録可否の決議が行われる予定とある。切通の写真を見ていたら、また鎌倉のあちこちを歩きたくなった。
■神奈川県立金沢文庫 『鎌倉興隆-金沢文庫とその時代-』(2012年10月13日~12月2日)
世界遺産への登録を目指す「武家の古都・鎌倉」を共通テーマに掲げ、神奈川県立歴史博物館、神奈川県立金沢文庫、鎌倉国宝館による三館連携特別展が開催されている。まずは、金沢文庫から訪ねてみた。
展示室に入って、ああ、久しぶりに金沢文庫らしい企画だな、と思った。仏像や仏画もいいけど、こういう歴史資料をじっくり読み込む展示も嫌いじゃない。文書だけが並んでいるわけではなくて、俗人の肖像画、彫像、工芸、仏像・仏具など、古道具屋の店先かと思うほど、バラエティに富んでいる。『一遍聖絵』は、山口晃さんが著書『ヘンな日本美術史』に、絹本は”白”がいのち、と書いていたのを思い出しながら眺めた。称名寺所蔵の古幡残闕、玉簾(ガラス棒を綴じ糸で編み結んだもの)、玉華鬘(水晶玉を刺し連ねたもの)など、あまりこの文庫でも見たことのないお宝が並んでいた。
文書では、鎌倉時代の「日本図」(ただし西半分のみ)が面白かった。日本の周囲を、蛇体らしきものがぐるりと囲んでいる。ただし、対馬と隠岐島はその外側にある。戦国時代の「日本図」(千葉・妙本寺所蔵)はもっと素朴。中世には、知識人でもこの程度の世界認識だったんだから、固有の領土とか言ってもしょうがない、と思うのに…。
称名寺聖教(金沢文庫古文書)には、元朝の太祖テムジンからの国書や高麗からの国書の写しも残されていて、当時の「アジアの中の日本」をめぐる想像が刺激される。一方には、美しい青磁、宋版漢籍が伝えた知識と思想、世界とつながるということは、善美なものも流入するけど、脅威や災厄も避けられないということなんだな、と思う。図録(後述)の写真はあまり大きくないが、印刷がいいので、これらの文書の本文を、ゆっくり手もとで読むことができるのは、とてもありがたい。
文書類は、ほとんどゴミみたいな切れ端からも、いろいろ重要なことが分かるとか、権門僧侶の堕落を諷刺した『天狗草紙絵巻』の詞書が、それと分からないような表題で収蔵されている、というのも面白かった。展示室の外のケースにあった「金沢文庫印」の紹介では、こんなに種類があるのか、と驚く。古文書の価値をあげるために作られた偽物もあると知って、苦笑。
■神奈川県立歴史博物館 『再発見!鎌倉の中世』(2012年10月6日~12月2日)
引き続き、横浜に移動。チラシには「掘り出された中世都市鎌倉」のサブタイトルがついているとおり、出土文化財が多い。完璧な姿のまま、大切に尊ばれて、人々の手を渡ってきた伝世品の武具や磁器に比べると、赤さびた鎧の小札、刀装具、磁器や漆皿の断片、さらには折烏帽子(!)、下駄、箸など、生々しすぎて、悲鳴をあげたくなるものもある。材木座遺跡出土の人骨(東京大学総合研究博物館所蔵)も展示されているので、覚悟をして出かけたほうがいい。いや、噂に聞いたことがあるだけのものを見ることができて、貴重な機会だったと思うけど…。
めずらしいところでは、歴博の『前九年合戦絵詞』が出ている。それから、あ、これ称名寺の青磁だ、と思うものや、鎌倉国宝館でよく見る境内絵図がこっちに来ているのを見つけた。逆に金沢文庫には、県立歴史博物館所蔵の北条時頼像が出ていた。見慣れた作品でも、場所が変わり、一緒に並ぶものが替わると、なんだか新鮮な感じがする。
また、三上次男氏、赤星直忠氏、八幡義生氏、沢寿郎氏など個人名とともに展示された出土遺物、古写真群が大量にあった。いずれも鎌倉の文化財研究と文化財保護に力を尽くされた方々で、赤星直忠氏、八幡義生氏の出土遺物コレクションは、県立歴史博物館が保管しているという。それ以上に感銘を受けたのは、両氏の調査資料で、丁寧な筆跡、内容の綿密さもさることながら、書籍の外箱やデパートの包装紙で補強された手作りノートの外観を眺めていると、研究者人生の醍醐味がしみじみ伝わってくるように思った。
私は短期間だけ逗子市に住んだことがあるのだが、あらためて航空写真や地形図で眺める鎌倉、明治から戦後の宅地開発に至る古写真も面白かった。昭和8年以降の「勝長寿院跡」の写真を見て、今年、源義朝と鎌田正清の供養塔を探しに行ったことを思い出した。こんなのんびりした田園風景は跡形もないが、山に囲まれた谷戸のかたちや曲がりくねった細い道は、今も面影が残っているように思う。
かなり厚い図録は、3館連携で1冊。歴史博物館で購入。鎌倉国宝館はまた後日の予定だったが、図録を見たら、かなり珍しい作品が出ている。鎌倉だけでなく、京都・奈良・静岡・愛知などの寺院からの出品も。点数の多さにハッとして、国宝館のホームページを見に行ったら、前後期×1~3期という煩瑣な展示替えが組み込まれていて、すでに展示が終わっているものも多かった。がーん。この展示替えって、ありがたいんだか何だか。
※参考:武家の古都・鎌倉-世界遺産登録を目指して
神奈川県・横浜市・鎌倉市・逗子市の「世界遺産登録推進委員会」が運営するサイト(らしい)。2013年6~7月頃、第37回ユネスコ世界遺産委員会において登録可否の決議が行われる予定とある。切通の写真を見ていたら、また鎌倉のあちこちを歩きたくなった。