見もの・読みもの日記

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初訪問/宗教美術の世界(平櫛田中彫刻美術館)

2022-09-12 21:59:08 | 行ったもの(美術館・見仏)

小平市平櫛田中彫刻美術館 企画展『宗教美術の世界~平櫛田中コレクションより~』(2022年5月18日~9月11日)

 ずっと気になっていた展覧会だが、行ったことのない美術館なので躊躇していた。結局、会期末の週末に思い立って出かけた。JR国分寺駅で西武多摩湖線に乗り換え、1駅先の一橋学園駅から住宅街の中を少し歩く。国分寺駅で下りたのは10数年ぶりで、再開発による変貌ぶりにびっくりした。

 平櫛田中彫刻美術館は、1984年に平櫛田中(1872-1979)の旧宅(現・記念館)を公開するかたちで開館し、その後、隣に展示館が新築されている。展示館は地上2階地下1階の広々した空間で、展示も充実していた。受付のあるホールに、いきなり見覚えのある『転生』(巨大な鬼が人間を口から吐き出している図)や『天心先生記念像』(芸大キャンパスに設置されている岡倉天心像の縮小版)があって、毒気を抜かれてしまう。平櫛田中、そんなに好きな作家として意識したことはなかったが、基本的に写実彫刻は好きなのだ。

 1階には『尋牛』『張果仙人』など中国の古典に取材した作品が多く並んでいた。太公望を表現した『釣隠』は、彩色で華やかな唐錦の着物を着せているが、皺のより方に全く不自然さがないのが見事。快活な表情の『気楽坊』2躯にも惹かれたが、解説を読んだら、後水尾天皇が、徳川秀忠の娘と政略結婚させられたことに不満で「世の中は気楽に暮らせ何ごとも 思えば思う思わねばこそ」という歌をつくり、気楽坊と名づけた指人形を作らせて日々のやるせない気持ちを慰めたことに由来する、とあって、しみじみしてしまった。

 2階は今回の企画展示。まず平櫛田中の書画。白隠みたいな達磨図があって、筆者は「妙心寺大航」と書かれていた。調べたら、古川大航といって臨済宗妙心寺派管長をつとめた僧侶で、静岡県興津の清見寺住職でもあった。清見寺といえば、白隠ゆかりのお寺のひとつでもある。なるほど。

 法隆寺五重塔の塔本塑像だという可憐な仕女坐像もあった。円空作だという厨子仏は、小さくて簡素な厨子の姿に惹かれた。あと中国製らしい小さな金銅仏が複数あり、そのうちのひとつは「後周武成2年(6世紀)、王宗一」という年代と作者が判明しているようだった。

 申し訳ないが笑ってしまったのは、奥の部屋にあった『ウォーナー博士像』(アメリカの東洋美術史研究家)と『岡倉天心胸像』で、どちらも金箔でピカピカに覆われている。中国の観光寺院の仏像みたいで、少しお腹のふくらんだ天心先生は、特にご利益がありそうだった。

 最後に地下展示室へ。横綱をモデルにした『玉錦』、伊勢の「赤福」の女主人をモデルにした『五十鈴老母』、そして下着だけの六代目尾上菊五郎をモデルにした『試作鏡獅子』と、写実人物彫刻の名品が並ぶ。『法堂二笑』もよかった。解説を読んだら、臨済と麻谷の二人だという。私は、興福寺の無著・世親像を思い出しながら、眺めていた。

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