天災などによって飢饉に陥っていた村々を支援するアッシュだったが、その中の１つの村はもう手の打ちようがなさそうに思われた。畑は荒れ果て、狩人は不在のまま補充されておらず、やせ細った村人たちは自ら工夫をするどころか人手が足らずに半野生と化した畑を維持することもできず、余所からの援助に感謝することなく不平不満ばかりで、かといって愛する村を捨てて逃げるということもできないのだ。
普通だったら見捨てる一択だが、アッシュには思惑があった。この村ならば新しい技術を試してみることができる。成功すれば貴重な先行例として普及の弾みになるし、失敗してもともと。滅びるしかない村が１つ消えるだけなのだ……。
「私達も丁寧に、何度でもお教えしますから、わからないことがあったら何度でもお聞きください。辺境伯閣下を落胆させないためにも、疑問や質問は大歓迎ですからね」
アッシュはにこやかに村人相手の農業指導をおこなう。
弱者からの解放と、強者の重責を、存分に楽しんでね……と。
アッシュは善人ではあるけれど、お人好しではないのだ。
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