many books 参考文献

好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

ニッチを探して

2016-03-08 19:20:13 | 読んだ本
島田雅彦 平成28年1月 新潮文庫版
発行は今年1月1日となってるけど、たしか去年の末に買ったんだった。
あ、島田雅彦の新しいのがあるぞ、単行本のときは気づかなかったかも、これ、って感じで。
読んだのは、つい最近。(週末の移動の往復のなかで。)
いや、あいかわらずおもしろいんだ、著者の作品は。買うまで迷ってても、読み始めちゃえば、勢いついて読んぢゃう。
主人公は、大手銀行の大手町支店の副支店長。
ある日、妻と大学生の娘を置いたまま、勤めの帰りに「離脱」しちゃう。
翌朝になっても家に帰ってこないし、会社にも出てこないので、周りはザワザワしはじめる。
警察は最初、拉致誘拐といった事件か、本人の意思による失踪か判んないので及び腰だけど、勤め先は銀行のカネを着服か横領かした疑いがあるとして追及する立場をとる。
用意周到に、足どりをつかまれないように逃避行する本人だが、ただ悪事が目的ぢゃないので、いざ逃げてみると、
>今日がどういう日になるのか、全く予想がつかない。自分が何をしたいのかもわからない。ただ徒に空腹を満たし、喉の渇きを癒すために行動するだけで、それ以外にはやることがない。
という状態に陥っていて、危機感をもつというより、その日その場で何を食ってどこで寝るかくらいの問題意識しかないようにさえ見える。
で、北区赤羽から、上野公園、隅田川、浅草をうろうろするとこから、方角かわって中野、そして多摩川沿いなど、東京のまわりで、自分の居場所≒ニッチを探す。
(途中、ウインズ後楽園で、馬券買って、少ない手持ちのカネを増やそうと画策するのは、ご愛嬌だね。)
そのうち、支店長の意向に逆らって銀行のカネを操作したことはしたが、ホントに悪い奴はどっちなのかといった背景も明らかにされてくるなかで、怖い勢力に追われる展開になる。
とてもよいリズムでさくさくとは読んでいくんだが、ふと思ったのは、むかしむかしの小説だったら、己の存在意義を否定するような操作の実行と、失踪をはかるまでの逡巡みたいなもの、苦悩する人の内面を、延々と書くんぢゃないかという気がするんだが、事はとっととやっちまったあとで、空間を移動していくさまを淡々と書いてくとこが、現代風の妙ってもんなんだろうかってあたり。


コメント
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