many books 参考文献

好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

裏声で歌へ君が代

2017-04-02 19:24:20 | 丸谷才一
丸谷才一 昭和57年 新潮社
去年11月に地元の古本屋で手に入れた。
丸谷才一を読み返すというか、読んだことないものも含めて読んでんだけど、ここんとこ。
これは以前いちど読んだはずなんだが、うちになくて。
処分するわけないから、きっと昔むかしむかし(十年ひと昔)読んだときには、ガッコのトショカンででも借りたんだろうと思う。
ところが、探してもなかなか見つからなくて、見つからないと、またどうしても読みたくなるもので。
ところがところが、あるときにはあるもので、その古本屋さんでは、別々の棚だけど、二冊も置いてあった。
うーん、両方ひっぱりだして詳細に状態見比べるほど私は厚かましくないので、箱に帯のあるほうでいっか、くらいのノリで選んで買った。
御店主のとこへ持ってくまえに、やっぱ一度箱から出して値段は見たけどね。高かったらどうしよと思ったけど、初版、1000円。ふつうの古本。

で、手に入れたことで満足しちゃって、しばらく本棚へ眠らせたままにしちゃってたけど。
(近ごろたいていの本は、床に積んだままにしちゃってるんだが、さすがにこれは棚に空きスペースつくって入れた。)
読んだのは、つい最近。あまり電車のなかで読んだりしないのだ、まじめに読みたい小説は。休日に時間つくって(ただし態度はよろしくなく寝転がって)読む。
おもしろいって記憶だけあって、どんな話だったかはまったく忘れてたけど。
それが新鮮に楽しめて読めるんだから、忘却もわるいことばかりぢゃあないね。
主人公は五十歳くらいの画商。むかし陸軍幼年学校の生徒だったが、学徒出陣したころには、もう戦争は終わるころだった。
で、銀行に勤めてたんだけど、あるときガウディの建物の写真を見て、会社を辞めてスペインまで飛んで行った、その一年後には離婚。
そういう無鉄砲なところはあるんだが、物語の冒頭では、一度会ったことがあるきりの女性を見かけて、地下鉄のエスカレーター逆に駈け下ってて、食事に誘うという無鉄砲ぶりをみせる。
ところが、その前に寄らなければいけないところがあると言って、つれてくのが台湾民主共和国の大統領就任のパーティ。
この台湾の国というのが、ほんとに主権を世界中から認められてるわけぢゃなくて、当時支配していた蒋政権に逆らって台湾人本来の国家をつくって独立しようっていう有志の集まり。ときは昭和50年ころとおもわれる。
新大統領というのも主人公の友人で、バナナの貿易でもうけて、いまは日本国内でスーパーマーケットの社長とかやってる、ふつうっぽいひと。
かくして、台湾独立をめぐるごたごたと、エスカレーター逆乗りしてまで追っかけてった三十代女性との恋とで、縦横織りなされてって物語はすすむ。
初めて読んだときはねえ、50になった男が恋愛なんかするのかしらんと思ったもんだが、いまになれば私にもわからんこともな…ウォッホン、ゲホゴホ。
さてさて、国家について、台湾の存在しない国をめぐって動いてるひとたちと話してるうちに、
>とすれば、結局のところ、国家はただ何となく在ると判断するのがいちばん正しいことになるだらう。それは無目的にただ存在して、その存在の記念として長方形がいろいろの色で染められ、それが風にひるがへつたり、ちぎれて泥にまみれたりする(p.340)
などと、ものすごいことに行き着くんだが、そこんとこを、相手に「日本といふのは特にそんな感じのする国ですね。ただ存在する……」なんて言われちゃったりするのはドキッとする。
とは言え、堅苦しい理屈を並べてるだけの小説ぢゃあなくて、たとえば、麻雀をしながら昔の旦那とのいきさつをうまく語る老女が、話につりこまれるメンツを相手に勝っちゃうとこなんかは、うまいなあと思う。
こういうとこあるから、私はこの作家が好きになったんだっけ、って気がしてきた。
うん、見つけて、読むことができてよかった。平成28年11月の収穫。
どうでもいいけど、箱のなかのカバー画は、ちょいと純文学書下ろし特別作品らしくはない感じだね。(装幀は和田誠だが、この装画はアントニオ・ロペスというひと。)
(これ記憶にないから、やっぱ私はカバーのかかってない図書館の本読んだんだろうな。)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする