many books 参考文献

好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

あなたの人生の物語

2018-04-21 18:09:18 | 読んだ本
テッド・チャン/浅倉久志・他訳 2003年 ハヤカワ文庫版
ちょっと前に、テレビ録画しといた『メッセージ』という映画を観て、ん?なんだ、これは? と思った。
ちなみにSF映画ってのはわりと好きで、なんの予備知識もなしに、適当に観たりするんだが、この映画は、そういえば聞いたことがあったような、“バカウケ”が空に浮かんでるやつであった。
異星人がやってきて、それとなんとかコンタクトをとろうとする話なんだが、とても気になってしまって、調べたら原作は小説だというので、読んでみることにした。
意外なことに、映画の原作『あなたの人生の物語』は、長編ぢゃなくて短編、せいぜい中編と呼べる程度の長さ、文庫で約100ページくらい。
で、文庫本は「STORIES OF YOUR LIFE AND OTHERS」って2002年の短編集のそのまんまの訳本みたいだった。映画化のおかげで表紙カバーは、すでにバカウケになってしまってたけど、新刊書店でわりと簡単に見つけることができた。
買ったの先月くらいだけど、背表紙みたときは、分厚いからいつ読めるかちょっと懸念したが、短編集だったんで、さっさと読み始めた。(長編は連続して読むまとまった時間がほしい。)
ぜんぶSF、私はそれほどSF小説好きってわけでもないので、独自の世界にスッと入るコツがわかんないもんだから、ちょっと戸惑ったが、あまり深く考えずにさっさと読むことにした。
「バビロンの塔」 Tower of Babylon
かのバベルの塔の話。煉瓦を積んだりして建てられてるバビロンの塔は、なんと途中で壊れることも人々が諍いを起こして中止することもなく、ほぼ完成して天に届いちゃってる。
月の高さも太陽の高さも星の高さも超えて、空の丸天井に到達しちゃってるんで、その天井に穴を掘るべくツルハシ持った鉱夫のチームが塔を登っていく。
「理解」 Understand
事故で一時は植物状態になってしまった「わたし」の語る話で、ホルモンK療法って脊髄に新薬を注入する治療を受けたら、回復するどころか脳の機能が常人以上に向上してしまったとこから始まる。
一回で治ったのに、なかば実験台として再度クスリの注入を受けたところ、数学でも語学でも機械の扱いでもコンピュータ関係でも何でも難なく使いこなせちゃう大天才状態になってしまった。で、CIAに追われるんで逃げるんだが、しかし、このテの話を一人称で書こうというのは勇気あるね。
「ゼロで割る」 Division by Zero
天才数学者の苦悩、なのかな?の話。研究の結果、大発見をしてしまうんだが、それが、いかなる数もそれ以外の任意の数と等しくて、そこに矛盾がないっていう体系らしい、意味がよくわかんないけど、その世界自体に意味がないことにたどりついちゃったときの狂気の気持ちはわからんでもない気がする。
「あなたの人生の物語」 Story of Your Life
地球にやってきたエイリアンとコンタクトする言語学者が主人公。
音声だけぢゃなくて、相手の文字も見せてもらって、言ってることを理解しようとするんだが。
映画みたときから驚かされたのは、その言語によって、考え方そのものが変わってくるということ。
>さらに興味深いのは、〈ヘプタポッドB〉はわたしのものの考え方を変えていくという事実だった。(略)
>自分の思考が図表的にコード化されるようになってきたのだ。(略)
>さらに堪能になるにつれ、意味図示文字の構図は、複雑な概念までも一挙に明示する、完全に形成された状態で現れてくるようになった。(p.243-244)
ということなんだけど、その宇宙からきた生物たちは、人間のような時系列を追うような言葉をつかわなくて、過去と現在と未来を同時に知っているような文脈をつくり、そういう言語でものを考えるから、過去と未来を一挙に知覚することができてるんだって感じなんだが、なんとも頭がクラクラする。
私が映画みて衝撃受けて本屋に走らされたのは、ビジュアルとかぢゃなくて、そのセンスオブワンダーなんだと思う。
過去と未来を同時に知っている生命体は、過去から未来へって一方向なんかぢゃない言語を駆使する。それどころか、順番が言語のほうが先かもしれなくて、その言語をマスターしたら、未来の出来事が記憶として見えてきちゃうようになっちゃう。なんか、すごいこと言ってるよ、って。
ひさしぶりに時間の概念がぶっとんぢゃうSFに出くわした、考えんのめんどくさいけど、そういうのは好きだったりする。
「七十二文字」 Seventy-Two Letters
これもかなり独自の世界で、なんのことやら考え出すとわかんないので、わかんないまま読んだ、「名辞」というものを扱う命名師の話。
この世界の科学みたいなものは、72文字の文字ですべてできてて、たとえば人形に作業をさせるための72文字の紙を突っ込めば、それでロボットとして動き出す。
で、人類が種として絶滅が近いことに気づいた人たちが、なんとか生き延びるためのチームをつくってんだが、そこで存続のための名辞を研究してるうちにトラブルに巻き込まれてく。
「人類科学(ヒューマン・サイエンス)の進化」 The Evolution of Human Science
これはショートショートということだが、科学雑誌の記事の体をとっている。
人類よりはるかに知性が優越な超人類という存在がいるらしく、そういう世界で超人類科学に対して、人類科学の意義はあるかみたいな、短すぎて何のこっちゃかわかんない。
「地獄とは神の不在なり」 Hell Is the Absence of God
これは強烈なイメージがかきたてられる、ときどき天使が降臨する話。
地上に天使がけっこう頻繁に降りてくるんだけど、そのとき炎や雷の爆発的災害のようなことになって、居合わせたひとは障害をおったり死んでしまったりする一方、それまで持ってた身体的障害がきれいさっぱり無くなってしまう奇蹟も起きる。
天使降臨に出くわして死んでしまったひとはその場から天国に行けてしまう可能性が高い、一方で地上の人間たちはときどき地獄が顕現するさまを実際に目で見ることができるんで、自分の知ってるひとが地獄にいるのを見つけることもできる、なんともすごい世界。
「顔の美醜について―ドキュメンタリー―」 Liking What You See:A Documentary
仕組みはわかんないんだが、美醜失認処置(カリーアグノシア)という技術が普及してる世界。
この処置を受ければ、人の顔の美しいかそうでないかが認識できなくなる。
推進する勢力は、それで容貌による差別のなくなる社会が実現できるとかいうんだけど、もちろんそんな処置必要ないって反対する派もいて、ある大学では処置を制度化するかどうか学生全員による投票が行われたりする。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする