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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

虚航船団

2021-11-27 18:55:34 | 読んだ本

筒井康隆 平成四年 新潮文庫版
このあいだ『ゼウスガーデン衰亡史』(ハルキ文庫版)を読み返したときに、巻末解説で巽孝之氏が小林恭二の名を知ったのは筒井康隆氏からだったという話を書いていて。
1987年秋の谷崎潤一郎賞受賞パーティ会場であったとき、筒井氏が言うことには、「いやあ、小林恭二には、してやられた」、「『虚航船団』をやられちゃったんだよ、『ゼウスガーデン衰亡史』で」と、興奮した様子で賞賛してたんだと。
翌年の「ユリイカ」の誌上対談では、
>小林恭二 それから、何と言っても『虚航船団』ですね。何だこれは、やりたい実験を全部してるじゃないか、どうしてくれると思いました。
>筒井康隆 僕は以前から『虚航船団』の第二部と小林さんの『ゼウスガーデン衰亡史』の類似が非常に気になっておりました。(略)
というやりとりもされたという。
ん? なんだそれは? いままで気にしてなかったが、どうも最近『ゼウスガーデン衰亡史』こそ自分にとってのベスト小説ではないかと考えているところもあり、それに先立ってあったというその小説は読んでみたくなった。
単行本の刊行は昭和59年だという、くしくも小林恭二のデビュー『電話男』と同じだ。
文庫で570ページほど、長い話だ、しかも開いてみたら、最初の段落が文字びっちりで4ページにもわたっていて、この密度でこの厚さかと思うと気が重くなった、『表層批評宣言』ぢゃないんだからさ。
物語は三部構成で、「第一章 文房具」「第二章 鼬族十種」「第三章 神話」。
文房具って何のこっちゃと思うんだが、
>まずコンパスが登場する。彼は気がくるっていた。
で始まるんで、なんなんだいったい、と思うんだが、以降も、
>次に登場するのは日付スタンプである。彼は日付がわからなくなって以来気が狂ってしまっていた。
とか、
>ホチキスが登場する。彼は気ちがいだった。
とか、
>ここで輪ゴムが登場する。彼は気が狂っていた。
とか、
>分度器が登場する。彼は完全に気が狂っていた。
とか、みんなそういう調子である、なんなんだこれはと思うんだが、宇宙を航行する大船団のなかのひとつ「文具船」の乗組員の様子が紹介されてって、最後には文具戦は船団を離脱して惑星クォールに進攻して全居住民を殲滅せよって指令に従う展開になる。
第二章は、そのクォールの居住民のイタチ族の歴史の話。
イタチにもいろんな種類があるらしく、クズリとかオコジョとか、ミンクやテンやスカンクも含まれてて、なんつってもイイヅナなんて種族もいて、それらがクォールの地で栄枯盛衰する。
中世のいろんな王朝の系譜や殺戮の歴史を経て、火薬や大砲なんかの発明がありいの、諸革命や宗教の対立なんかもあっての近代を経て、大戦があったのちには核兵器開発や宇宙開発を競い合う現代にいたり、まるっきり人類史をなぞりながら、イタチたちの歴史が記述されるんだが、いったいなんなんだこれはと思う。
かくして、この星の刑紀という暦の九九九年になって、宇宙から「天空よりの殺戮者」がやってくる、これが文具船で、その戦いのさまが第三章。
十二方面軍に分かれて各地で戦闘を繰り広げるんだが、乗組員の「紙の楮先生」をして、
>クォール中に散らばって文具船内のあの日常的な大小の騒動をクォール全体に拡大し撒き散らしつつある文房具たちの様子をひとつ残らず掌握したい。いかなるナンセンスが、いかなる残虐が、いかなる無謀が、いかなる内輪もめが、いかなる目茶苦茶が行われていることであろうか。(p.408-409)
と言わせるくらい、目茶苦茶でナンセンスなことになるのはわかりきっていて、そのさまが延々と描かれていく。
んんん、字面だけは追っかけて勢いで読み通してはみたけれど正直わからないんで、私ゃ、ゼウスガーデンのほうが美しくて好きだなあ。

コメント
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