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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

「週刊文春」の怪

2022-05-22 18:50:03 | 読んだ本

高島俊男 2001年 文春文庫版
「お言葉ですが…(2)」というサブタイトルがあって、こないだ読んだ『お言葉ですが…』の続編である。
なんでも単行本のときは『「それはさておき」の巻』というタイトルだったのを文庫にしたとき改めたそうで。
「週刊文春」の何が怪なのかというと、この雑誌のタイトルについて、少なからず「シューカン ブンシュー」と発音するひとがいるので、それが不思議だという話。
たぶん、「ブン シュン」というのが発音しにくいからだろう、「春分」とか「逡巡」とかってのはあるが、「〇ン〇ュン」って形の言葉はほかにないし、と推察しているが。
そっから話は著者の故郷の播磨を「播州」って呼ぶことに展開してって、「播」の字の読みは「ハ」なのに、「バン」って呼んぢゃうのは文字のツクリの部分を読む「百姓よみ」というものだという。
土地の呼び方については、べつの章でおもしろいのがあって、「姫路」を東京のひとに「メジ」とヒに力を入れて言われると気持ち悪かったという。
地元のひとは、東京のひとが「銀座」というのと同じ平らなアクセントで「ヒメジ」と言うのだという。
ところが愛知県に行くようになって気づいたのは、東京や関西のひとは「名古屋」を「ゴヤ」とナを高く言うんだけど、地元の学生は「名古屋城」のときの発音のとおり平らに「ナゴヤ」と言うんだそうで。
そこで音声学の城生佰太郎先生の説として、地名の発音は「不慣れなうちは頭高型だが、同化が進むに従って平板型へと変化する」(p.69)という理論が紹介される。ふーむ、そうか。
そっから今の若いひとは、平板に発音することが多い、「彼」なんかもそうで不安定に感じるとかいう話になるが。
もちろん、読み方や発音のことばっかぢゃなくて、言葉の由来なんかも勉強になるもの多い。
アメリカのことを合衆国とするのは江戸幕府の役人が始めたらしいんだが、それは中国の『周礼』という古い書物に「大封之礼合衆也」という文言があって、そこからきてるらしい。
アメリカというのは当時の世界ではめずらしく国王がいるんぢゃなくて、国人が頭目であるプレジデントを選び、国人の代表が集会所に集まって政治のことを決めている、なので「大封之礼合衆也」を思い出し、
>「国の境域を定める儀式の際は国人がみな集合する」という意味である。
>国人が一堂に会して国事をおこなうのは、まさしくこの「合衆」にあたる。それでアメリカを「合衆国」と呼んだのである。(p.21)
ということになってるそうな、「州が集まってる」とかヘンなこと言わないようにって。
言葉についてヘンな意見いうひとに対して著者はきびしいが、前著でもそうだったように、辞書にも厳しい、辞書にのってても間違ってるものは間違いなんだと。
とくに編纂者の怠慢には憤懣やるかたないものあるようで、辞書には実際の文献からの用例を載っけろ、編纂者がつまらん作例を並べるんぢゃないという。
>用例があればいつごろからの言いかたかわかるのだが、作例では語の歴史はわからない。(p.224)
とか、
>どうも国語辞典には、文学作品以外の文献に目を配らない、という共通のズボラがあるように思われる。(p.230-231)
というのは、「OED」をつくった話の『博士と狂人』を読んだことあるおかげで、よく理解できる気がする。
どうでもいいけど、日本で最初の結婚披露宴というのは、明治14年に、鳩山一郎の父母である、鳩山和夫と春子が築地のすみ屋でおこなった、なんてことまで教えてくれるのは、言葉の勉強とは関係なさそうな、トリビア仕入れられる本として楽しめるって感じがする。
ところが、そのあとに、翌明治15年に鳩山和夫が「法律事務所」を開業したんだけど、これが
>「事務所」という日本語のはじまりである。(p.100)
なんて展開になるんで油断ならない。
コンテンツは以下のとおり。
松井? うん、全然いい
 義士討入りの日づけ
 「合衆国」とは何ぞや?
 肩書のはなし
 先生に「金之助様」とは!
 タテヨコの論
 松井? うん、全然いい
 少年の手紙
「週刊文春」の怪
 テーコクリッカイグンワ……
 ハツホツの盛衰
 慣れれば平板
 夕焼け小焼けの……
 「週刊文春」の怪
 聖戦カンツイ
 「むめ」「むま」のことから
 披露宴、事務所ことはじめ
附の字の不覚
 親ガメこけたら……
 附の字の不覚
 校訂おそまつ録
 「初老」は御不満?
 うまいものは身の養い
 瓜田に靴を納れずとは?
 たくらだ猫の隣歩き
新聞文章の奇々怪々
 「汚職」の問題
 過酷は苛酷のかわりになるか?
 孫氏の兵法、「全編発見」?
 カミのはじまり
 新聞文章の奇々怪々
 「血税」騒動
 岸田吟香の日記
 漢姓名の日本読み
それはさておき
 それはさておき
 「ごくろうさま」の美学
 最初は亀の踊り
 「すべからく」の運命
 御教示感謝の巻
 出歯亀こと池田亀太郎
 亀の踊りのはやしことば、ほか
「こっちがわ」と「あっちがわ」
 からだことば談義
 どっちが失礼だ
 平和的解決に「こだわりたい」
 「こっちがわ」と「あっちがわ」
 今のモノサシで過去をはかる
 学問に王道なし?
 よしんば、いかなる、おろか
JISとは何者だ?
 全部ベンの話
 数は一からはじまる
 茶臼山の謎
 日本英語は漢文のお化け?
 統廃合と再編・淘汰
 「還暦」と「享年」
 JISとは何者だ?

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