みなさん、こんにちは。稼プロ!20期生の加納久稔です。
今日は昨年の秋頃に読んだ、野中郁次郎・竹内弘高共著『ワイズカンパニー 知識創造から知識実践への新しいモデル』東洋経済新報社(以下「本著」とします)について触れさせていただきます。
本著は、1995年に刊行された『知識創造企業(The Knowledge-Creating Company)』(以下「前著」とします)の続編として2019年10月に上梓された『The Wise Company : How Companies Create Continuous Innovation』の日本語版です。2部9章プラスエピローグで構成され、480ページもあります。
前著は読んだことがないのですが、新しい組織的知識がいかにSECI―共同化(Socialization、暗黙知から暗黙知へ)、表出化(Externalization、暗黙知から形式知へ)、連結化(Combination、形式知から形式知へ)、内面化(Internalization、形式知から暗黙知へ)―というプロセス(以下「SECIモデル」とします)を通じて生まれるかについての理論が提唱されたそうです。
本著では、まず1部で哲学、心理学、神経科学、社会科学各分野の知見をもとに、知識創造だけでなく知識実践も大切であることが説かれています。
そして、SECIモデルの進化系としてSECIスパイラルモデルが紹介されています。少し長くなりますが、その一部を引用します。
共同化
個人同士が直接的な相互作用により暗黙知を共有する。
表出化
個人がチームレベルで、共同化によって積み重ねられた暗黙知を弁証法的に統合する。この統合により、暗黙知のエッセンスが概念化され、暗黙知が言葉やイメージやモデルを用いた修辞やメタファーという形で形式知に変換される。
連結化
形式知が組織の内外から集められ、組み合わされ、整理され、計算されることで、複合的で体系的な形式知が組織レベルで築かれる。
内面化
連結化によって増幅した形式知が実行に移される。個人が組織や環境の文脈の中で行動を起こす。
つまり、単なるループであるSECIモデルに個人間、チーム内、組織内、環境における相互作用が加えられてスパイラルになったわけです。
次に2部では、SECIスパイラルモデルを実践するワイズカンパニーのリーダーとして必要な実践が6つ紹介されています。
①何が善かを判断する
自社や社会にとって-株主にとってばかりでなく-何が良いことかを見極める。
②本質をつかむ
本質を素早くつかみ、出来事や人の真の性質を見抜く。
③「場」を創出する
交流を通じて新しい意味を生み出す。
④本質を伝える
メタファーや物語や歴史的構想力を使う。
⑤政治力を行使する
政治力で人を束ね、行動を促す。
⑥社員の実践知を育む
徒弟制度やメンタリングで社員の実践知を伸ばす。
愚鈍な私にとって、理解しきれていないところの方が多いのですが、数少ない印象に残っていることの一つが、最後の「社員の実践値を育む」の中で触れられていた「トヨタの型」です。
トヨタでは、「5回のなぜ」、「カンバン」、「横展」、「自働化」などの慣行を言い表すのに「型」という言葉を用いているそうです。「型」とは「予測のつかないダイナミックな状況で、思考と行動を一致させる手段」のこと。つまり、社外の状況は絶えず変わり、予測不可能であっても、トヨタはそのような状況の変化に応じたクリエイティブ・ルーティンを築けるということです。
この「型」の一例として、「見える化」が挙げられています。トヨタではあらゆるプロジェクトに関する情報が、みんなの目に触れる壁やボードに掲示されているそうです。同じ情報がサーバー内にも保存されていますが、目に見える場所に掲示したほうが、社内が今どういう状況にあるかや、自分たちの行動が他のチームにどういう影響を及ぼすかについて、共通の理解が育まれやすいと考えられているため、わざわざ貼りだしているわけです。
長所は理解できるのですが、では在宅勤務における「見える化」とはどのようなものか。また悩みが一つ増えました。
最後に、本著のまえがきの最後に、「われわれは若い研究者やマネジャーに本書を捧げたい」とありました。記憶力や理解力の衰えを感じる今日この頃ですが、人生100年時代を見据え、私でも本著を役立てたいと思います。