あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

主婦の友社版「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々挨拶&スピーチ実例集No.86」

2021-10-05 11:21:36 | Weblog
蝶人狂言綺語&バガテル―そんな私のここだけの話第414回

○文学賞受賞を祝う司会者のあいさつ
本日はご多用中のところ、海洋冒険社主催第1回ヘミングウェイ記念国際海洋文学賞の授賞式にご来臨の栄を賜りましてありがとうございます。*1

この文学賞は、21世紀の新しい海洋文学の創造を目的として、海洋冒険社が主催するインターナショナルな文学賞でございます。幸い『老人と海』の作家アーネスト・ヘミングウェイ氏のご遺族のご承認とご協力を得まして、審査にも加わっていただけることになりました。*2

さて、スチーブンソンの『宝島』、J.ヴェルヌの『15少年漂流記』、メルヴィルの『白鯨』、コンラッドの『台風』など、海外には幾多の傑作がありますが、わが国の海洋文学は、小林多喜二の『蟹工船』、葉山嘉樹の『海に生くる人々』、景山民夫の『遠い海から来たCOO』などを除くとあまり作品に恵まれないようです。*3

しかし、わが国は米を主食とする内陸型の農耕民族と称されていますが、四方を海洋に取り囲まれ、漁労と航海と交易をもっぱらにする海民ネットワークの民族でもありました。
538年百済の聖明王から欽明天皇の御世にわが国に伝来したといわれる仏教も海からの渡来ですし、僧空海や日蓮も海民の流れを汲む文人宗教家でありました。

13世紀のはじめには鎌倉の3代将軍実朝が、大陸の文明国宋に渡ろうとして陳和卿に命じて唐船を造らせましたし、ポルトガル、スペインの宣教師が盛んに往来した安土桃山時代は、マルコ・ポーロやバスコ・ダ・ガマに始まる世界的な大航海時代の国内版でした。

信長、秀吉なきあと、国内を名実ともに統一した徳川家康が開いた江戸幕府は、2百数十年間続いた鎖国政策によってわが国のグローバル化と海洋文化を大きく後退させてしまった訳ですが、国内近海の物産・物流ネットワークを担った樽廻船、菱垣廻船は幕藩経済体制の一大動脈でありましたし、江戸末期には、ロシアと交流した高田屋嘉兵衛が活躍、大黒屋光太夫のロシア漂流記『北槎聞略』が生まれました。*4

今回受賞されました吉田司さんの作品は、幕末に紀伊半島の漁民がオーストラリアに航海していたという史実に基づく雄渾な海洋ドキュメンタリーであります。本作の登場によってわが国の海洋文学は、世界の桧舞台に躍り出たと申しても過言ではないでしょう。

吉田様、おめでとうございます!

○アドバイス
*1いかなる文学賞であるかを列席者に説明する。とくにはじめて登場する賞の場合はできるだけくわしい解説が必要である。
*2賞の設立にいたる背景を述べる。確かに司会者がいうように日本の海洋文学にはあまり大きな実績と成果がないようである。
*3しかし仔細に点検すれば、古代以来わが国の海洋文学的バックグラウンドは連綿と継続していたと司会者は説く。またそれには網野善彦氏などの海民研究の成果が反映されていよう。
*4 第1回入賞者の作品が、日本海洋文学の欠落を埋め、その隠された輝かしい系譜を継ぐものであると指摘して司会者の文化論的なあいさつが終わる。

   毎回の拙き解説はよしとしてホボホボと言う稀勢の里を憎む 蝶人
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