照る日曇る日第1642回
遂に完結した岩波文庫版で源氏の最終巻「蜻蛉」「手習」「夢浮橋」を読みました。
薫と匂宮、2人の貴公子の間で引き裂かれ、宇治川の急流に身を投じようとして悪霊に襲われ、心身の自由を喪失した薄幸の美女、浮舟の運命やいかに?
藤井貞和氏の解説によれば、紫式部は本巻を含む「宇治十帖」とこれに先行する「薫匂三帖」合わせて全54巻の、物語全体の約1/4を占めるポスト光源氏の13帖を書くのに、恐らく10年近くの歳月をかけたと推察されているが、本編に優るとも劣らぬ傑作中の傑作である。
それにしても、千年以上前の平安時代中期に書かれたこの大長篇小説の原文を、大谷崎や与謝野女史による「現代語訳」ではなく、懇切丁寧な語釈に助けられながら、ゆるゆると自力で読み下していく快楽を、何に譬えたらよいのであらうか。
才能の浪費を止めて纏めよとわが友Nは忠告せりき 蝶人