照る日曇る日第1647回
サンテックスことサン=テグジュペリの半生とその劇的な最期を描破しつくした傑作ドキュメンタリーなり。
1944年7月31日、ボルゴ飛行場を飛び立った44歳のサン=テグジュペリは、ついに戻ってはこなかった。さいごまで女にもてて、さいごまで我儘を貫き通して、他人が乗るはずだった偵察機を勝手に駆って、独軍機の餌食となる軍人兼作家サンテックスはまことにかっこいい。
しかしヴィシー派を毛嫌いしながらドゴール派に靡くこともしなかった彼。ドゴールが統治する戦後フランスでは、けっして薔薇色の人世は送れないことを熟知していた彼は、米軍のロッキードF-5Aと共に青い地中海の藻屑となることは、むしろ望むところだったのかもしれない。
おふらんす物を書かせたら天下逸品の作者は、本作においても膨大な資料と想像力を駆使して、この偉大な時代の英雄の生きた姿をあざやかによみがえらせることに成功している。
死にかけし事はあれども死にし事一度もなくて有難く喜寿 蝶人